闇の胎動 抜けるような青空が広がっている。 そういえばそろそろ藤の花が見頃だ。さんを誘ってみようか。 虎次郎がそう考えながら町を歩いていると、 「おい、君!しっかしろ!」 大石屋の主人の声が近くで聞こえた。内容と声の緊迫さに何事だと駆け寄った虎次郎は瞳を瞠った。 「英二君じゃないか!?」 大石屋の主人に抱え込まれている少年には覚えがあった。 「えっ、虎次郎さん、知り合いかい?」 「ちょっとした縁でね」 虎次郎は英二の傍に腰を落とした。 「…虎次郎さん!助けてくれ、りょうが…!」 英二は呻きながら虎次郎の着物の袖を掴んで、声を絞り出すように告げた。 虎次郎は大石屋の主人に英二の保護を頼み、城へ駆けつけた。 自分一人では手に余る。それに、もしかすると月の姫…に関わるかもしれない。 「周助ー!」 庭で国光と手合わせをしていた周助は、耳に飛び込んできた声に構えを解いた。 「虎次郎。珍しいね、君が城へ来るなんて」 「大変だ!りょうが…ああとにかく、周助か国光殿、どっちか一緒に来てくれ」 尋常でない様子の虎次郎に周助と国光は視線を交わした。 「僕が行くよ。国光、姫を」 「わかっている」 「周助」 心配そうに名を呼ぶ姫に周助は笑みを向けた。 「すぐに戻ります」 虎次郎と周助が走っていく後姿を見送っていると、足音が近づいてきた。 「なにかあったのか?」 問いかけたのは、城の客人である景吾だった。 「詳しいことは不明だ。今わかっているのは、英二兄弟がかかわっているらしいことだけだ」 「何!?」 眉を跳ね上げた景吾に国光の瞳が険しくなった。 「景吾、何か知っているのか?」 「……ひとつだけ心当たりがある」 「心当たり?」 首を傾げるに景吾は湖水色の瞳を僅かに細めた。 「、新月の夜には…いや、満月の夜以外は国光か周助と居ろ」 「どういうこと?」 「いいから、言う通りにしろ」 言って、景吾は国光へ視線を戻した。 「しばらく出かけてくる」 「…様を泣かせることにはなるなよ」 「そんなへまはしない」 「景吾さん」 「お姫様は城でおとなしくしてろよ」 景吾はフッと笑うと出立すべく、間借りしている部屋へと走った。彼が走る姿を見たのは初めてだ。 何もわからないけれど、大変なことが起こったか、起ころうとしているのだ。 は不安に揺れる瞳で長身の男を見上げた。 「国光…」 「周助が戻るのを待ちましょう。手がかりがあるかもしれません」 景吾は心当たりがあると言ったが、彼も全てがわかっているわけではないのだろう。 けれど、のお目付け役である自分と周助が動けない以上、心当たりのある景吾に任せるしかない。今はもう景吾はを狙ってはいない。 ともかく、いまを守れるのは自分と周助だけのようだ。 「様、中へ入りましょう」 「…ええ」 国光に促され頷いたの黒髪が吹き抜けた風に踊った。 【続きはゲーム本編でお楽しみください】 |