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 愛の言葉




 夕陽が沈み、あたりが暗くなり始めた頃。千鶴は台所でいつものように夕飯の支度をしていた。
 菜箸で鍋の中をかき混ぜていた千鶴は、ふぅと小さな溜息をついた。
 かつて雪村家の一族が住んでいたここに来たのは、去年の五月。
 清い水が変若水を浄化できるかもしれないと、亡き養父――千鶴はいまでも本当の父親であると思っている綱道が、死ぬ間際に教えてくれた。
 それからここに住み始めて、もうすぐ一年になる。
 その間、澄んだ空気と綺麗な清水のおかげで、羅刹であっても昼間に支障がない程に身体は人に近くなっていた。少しづつではあるが、身体の中の変若水が浄化されているのだろう。
 だから、星が瞬き月の輝く夜ではなく、明るく眩しい太陽の下で生活できるようになった。
 春になってからは、ぽかぽかと暖かい陽射しの下で、二人でよく日向ぼっこをして過ごしている。
 それは今日も同じで、けれどいつもと少しだけ違ったのは、総司からの告白の言葉。

『たとえ、いつか離れるときが来ても。
……僕の心は、永遠に君のものだ』

 千鶴が返事をしようと口を開いた時、総司の目蓋は閉じてしまった。
 幸せそうな顔で眠る彼の耳元で『私の心も、あなたのものです。……永遠に』と千鶴は囁いたけれど、彼の意識がある時に伝えたいと思った。
 それで伝えようと思っているのだが、時機が難しい。
 やはり言える雰囲気でなければ、脈絡なく口にするのもなんだか気恥ずかしい。
「…どうしよう」
「千鶴」
「きゃっ!」
 一人ごちた時、不意に名を呼ばれて、千鶴は小さな悲鳴を上げた。
 後ろを振り向くと、腕を組んだ総司が立っていた。
「そ、総司さんっ?驚かさないでください」
 心臓に悪いです、と続けた千鶴に応えることなく、総司は首を微かに傾げた。
「焦げてるけど、いいの?」
 はっと黒い瞳を見開いて振り向いた千鶴が見たのは、ぶすぶすと音を立てる鍋。
「きゃーっ!」
 慌てて鍋を竈の火から遠ざける。だがすでに遅く、鍋の中の物は食べられそうになかった。
 肩を落とす千鶴の顔を総司は覗き込んだ。
「君、さっきから様子がおかしいよ」
「そっ、そんなことは……」
 ないです。
 そう言いたかったが、総司の翡翠の瞳は信じていなかった。
 真意を読み取るように見つめられて、千鶴は総司から視線を外した。
「ちょっと、考え事をしてたんです」
「ふぅん……」
 総司の顔は明らかに納得していないが、千鶴はそれに気づいていない振りをする。
「ごめんなさい、総司さん。夕飯が少し遅くなってしまいます」
 そんな言葉で僕を誤魔化せると思ってるのかな、君は。
 本当に…可愛くて愛しくて、どうしようもない。
 胸の内で囁いて、総司は意地悪そうな微笑みを千鶴に向けた。
「今度は焦がさないでね」
 総司はくすくす小さく笑いながら台所から姿を消した。
 ……総司さんはどこまでわかって言ってるんだろう。
 千鶴は小さく息をついて、料理を作り直すべく気持ちを切り替えた。



「……僕の顔に何かついてる?」
「えっ?」
「さっきから僕のこと見てるのに気づいてないの?」
 くすくすと楽しそうに総司が笑う。
「あ、えっと、その…何もついてないです」
 ごめんなさい。
 謝罪の言葉を述べて、千鶴は左手に持っている椀へ口をつけた。
「あれ?もういいの?」
「何が、ですか?」
 きょとんとした顔で首を傾げる千鶴に、総司は口端を上げて微笑む。
「僕を見ていたいなら、ずっと見ていてくれて構わないのに」
「なっ…」
 千鶴の白い頬が瞬く間に赤く染まる。
 耳まで赤く染めて閉口する彼女に、総司は翡翠の瞳を細めた。
「かっ、からかわないでください」
 千鶴がなんとか抗議すると、総司は不意に真顔になった。
 総司の真剣な眼差しに千鶴の胸がどきん、と高鳴る。
「僕は本気で言ってるんだけどな」
「総司さん…あの、私…」
「……なんてね。あれ?もしかして信じた?」
「もうっ、総司さん!」
 いつになく真剣な瞳で言うものだから、本気で言っているのだと信じたのに。
 からかって遊ぶ総司が悪いのか。
 すぐに騙されてしまう自分が甘いのか。
 何度考えたところで答えはでない。
 あえて結論を出すのならば、総司は少し意地悪だということぐらいだ。
 今のはぼーっとしていた自分が悪いのだろうが、それにしても意地悪すぎる。
 知らない、とばかりに食事を再開した千鶴を見つめて総司は口を開く。
「千鶴、言いたいことがあるなら言って。君の言葉なら聞くから」
 とても優しい声が耳に届いて、千鶴は黒い瞳を見張った。
 総司は瞳を細めて優しく微笑むと、何事もなかったように煮物へ箸を伸ばした。
 ふとした瞬間にどこまでも優しい彼に、胸の奥が温かくなる。
 …反則です、総司さん…。
 嬉しさに身体中の血が沸騰しそうだ。
 少し意地悪なところも、本当はとても優しいところも、全部が好き。
 あなたの全てが、大好き。
 言うべき時機が見つからなくて悶々と考えていた千鶴は、寝る間際に伝えようと決心して、御飯を口へ運んだ。
 いつだって彼は、耳を傾けて聞いてくれるのだから。
 頬を緩めた千鶴は、総司が包み込むような眼差しで自分を見つめていたことには気づかなかった。



 風呂から上がった千鶴が寝所へ行くと、総司はまだ起きていた。
「先に寝ていてくださってよかったのに」
 春とはいえ夜は少しばかり冷える。
 冷えては身体に悪いです、と千鶴は僅かに目蓋を伏せた。
 本当は起きていてくれて嬉しかったのだが、それは言わないでおく。
「心配性だね、君は」
 微笑みながら、総司は千鶴の腕を掴んでぐい、と引き寄せた。
「きゃっ」
 小さな悲鳴を上げた千鶴の細い身体が総司の腕の中へ倒れこむ。
「危ないじゃないですか」
 頬を膨らませる千鶴に総司はにっこり微笑む。
「僕が君を傷つけるわけないだろ」
 言いながら、千鶴の背中へ両腕を回し総司は細い身体を抱きしめる。
「好きだよ」
「…っ」
 不意をついた甘い囁きに千鶴は息を詰めた。
 頬を赤く染め自分を見つめる千鶴に総司は笑みを深める。
「僕は千鶴が好きだよ」
「……私も…」
「私も?」
 総司の言葉にやんわりと背中を押されて、千鶴は彼の胸へ顔をうずめた。
 甘えるような千鶴の仕種に、総司の瞳が愛おしげに細められた。
「…総司さんが好きです…大好きです。
……私の心は、あなたのものです。……永遠に」
 やっと言えた、と千鶴は胸の内で安堵の息をついた。
「参ったな…」
 僅かに苦笑が滲む声が聞こえて、千鶴は視線を上げた。
 困っているような、嬉しそうな光を浮かべた翡翠の瞳と視線が絡まる。
「総司、さん?」
 名を呼ぶ千鶴の耳元へ総司は唇を寄せた。
「…抱いていい?」
 甘い声で囁かれて、全身が震えた。
 嫌ではない。けれど少し恐くて、千鶴は俯いた。
「千鶴が欲しい」
 声を出せずにいる千鶴の耳に、艶めいた声が届く。
 千鶴は総司の夜着の胸元をきゅっと握った。
「……嫌ならそう言って。無理に抱きたくないから」
 黙ったままの千鶴を気遣う優しい声。
「……嫌……じゃない、です…」
 やっとのことで搾り出した声は震えていた。
 彼が自分を求めてくれたことは嬉しいけれど、緊張までは隠せない。
 千鶴は手を繋いだのも、抱きしめられたのも、口付けをしたのも、総司が初めてだった。
 勿論、肌を重ねるのは総司が初めて。
 だからどうしたらいいのかなんて全くわからない。
 彼が知っているかもしれない女性――遊女のように振る舞えない。
 総司は千鶴の顎に長い指をかけて、彼女の視線を自分へ向けさせた。
「君はなにもしなくていいから。僕に縋りついていればいい」
 千鶴の心が見えるかのように、総司は静かに優しく微笑む。
 ゆっくりと近づく顔に千鶴は瞳を閉じた。
 微かな吐息が唇に触れて、そっと唇が塞がれる。心が重なる、優しい口付け。
 甘やかな口付けに酔いしれる千鶴の唇を割って、総司の舌が口内へ入り込む。舌を絡め取られ呼吸を奪う深い口付けに、頭の芯がくらくらする。意識を保とうと努力してみるけれど、角度を変えて繰り返される深い口付けの前に思考が溶けていく。
 ようやく口付けから開放された頃には、千鶴の息は上がっていた。
 白い首筋に口付けて強く吸い上げると、白い肌に赤い花が咲いた。
 微かな痛みに千鶴の口から小さな声が上がる。
 そのまま千鶴の肌をなぞるように唇で触れながら、しゅる、と彼女の帯を解いた。衣が開き、隠されていた肌が一瞬のうちに露になる。
 華奢な肩に手を這わせて衣をするりと脱がせると、総司は千鶴を布団の上に押し倒した。
「…っ…見ないでください」
「無理」
 胸元を隠そうと両腕を交差させる千鶴の言葉を瞬時に却下して、細い手首を掴んだ。
「やっ、総司さん」
 恥ずかしそうな瞳で懇願されるが、それは聞けない相談だった。
「見ないと優しくできそうにないけど、いいの?」
 意地悪くそんなことを言えば、千鶴は左右に緩く首を振った。
「いい子だね、千鶴」
 総司は千鶴の頬に口付けを落とした。
 露になった白いふくらみに触れて、手の中におさめる。千鶴の乳房は年頃の娘にしては小さいが、総司にとっては関係ない。抱く相手が千鶴であるのが重要であって、それ以外はどうでもいい。
 白いふくらみを揉んでから赤い蕾を指先できゅっと摘むと、突然の強い刺激に千鶴の身体がびくりと震える。
「…あ…っ…」
「…可愛い」
 瞳を細めて微笑み、再び白いふくらみを掌で包み込んで揉み解していく。
 やがて胸の蕾が立ち始めると、そこへ舌を這わせ、ついで口に含んで吸い上げた。
「…んっ…」
 くぐもった甘い声が総司の耳に届く。
 千鶴の喘ぎ声を聞きながら、唇は休むことなく蒸気して桜色に染まった肢体を這う。時々強く吸い上げて、白い肌に所有の印をつけた。
 滑らかな肌を滑るように動き、細い腰を辿って、総司の右手が秘所へ触れた。
「やっ、そんなところ…っ」
 千鶴が身体を起こそうと腕に力を入れるより早く、総司の長い指が中へ入った。
 ぐちゅ、と響いた厭らしい水音に耳を塞ぎたくなる。
「すごい濡れてる」
 嬉しそうに言われて、千鶴は小さい子が駄々を捏ねるように首を振った。
「い、やっ…言わないでっ」
「どうして?」
 わかっていて総司は訊いた。
 彼女の仕種がひどく扇情的で、苛めたくなる。
「ねえ、どうして?」
 もう一度問いかけながら、差し入れた指をゆっくり動かす。
「…そんなっ…こと…聞かな…でっ…」
 途切れ途切れにようやく声を上げると、総司は満足そうに微笑んだ。
「君が可愛いから、いけないんだよ」
 その言葉とともに挿入する指を増やした。
 千鶴が総司に抗議する間もなく、二本の長い指は蜜で濡れている中を円を書くように動き、抜き差しを繰り返し、千鶴の思考を奪っていく。
「千鶴、気持ちいい?」
「んっ…ああっ…」
 問われても応える余裕などなく、柔らかな唇から絶えず嬌声が零れる。
 総司は返事を期待してはいなかった。喘ぐ千鶴を見ていれば一目瞭然だ。
 不意に挿入されていたものがなくなって、千鶴は荒い呼吸を零しながら濡れた瞳で総司を見上げた。
「……甘い、ね」
 指にまとわりついた蜜を舌で舐め取っている総司がいて、千鶴は羞恥に顔を赤く染めて視線を逸らした。
 そんな彼女を見て、総司は「恥ずかしいの?」とわざとらしく微笑む。
 白く細い両脚を割り開き、身をかがめて股間へ顔をうずめた。
 花園に唇で触れ、溢れ出てくる蜜を舌で拭う。
 生暖かくうごめくものが彼の舌だとわかって、やめさせようと彼の頭へ手を伸ばすが、力が入らない。
「…っは…や…だっ…」
「大丈夫。そのまま感じてて」
 総司の宥めるような声は、甘い痺れに酔わされている千鶴には届かない。
 花園の入口だけでは足りず、蜜の溢れる中へ舌を入れた。蜜を舌に絡め飲み込んでも、次から次へ溢れてくる。もっと、とねだられているようで、気分が高揚してくる。
「そ…じさっ…っ…」
 千鶴が悲鳴に似た声を上げた。
 それに応えるように、叢に隠れた花芽を舌で軽く押し上げてから強く吸い上げた。
 嬌声とともに桜色に染まった肢体が跳ねて、びくびくと震える。
 何が起こったかわからない。
 そんな千鶴の焦点の合わない視線が、身体を起こした総司をぼんやり見つめる。
 総司は瞳を細めて微笑みながら、着ている衣を脱ぎ落とした。下帯を外そうとすると、千鶴の視線が僅かに外された。
 可愛らしくて、くす、と総司は微笑む。
「これからが本番なのに、ね」
 呟いて、熱くなった楔を秘所へ押し当てる。
 びくりと身体を堅くする千鶴へ口付けをしながら、蜜で潤った秘所へ熱を帯びた楔を入れた。
 十分に潤わせたとはいえ、男を受け入れたことのないそこは簡単に総司の楔を受け入れない。
 ゆっくりと少しづつ挿入するが、中ほどまで挿入したところで総司は息をついた。このままでは千鶴の身体に負担がかかり過ぎる。
「千鶴、力抜いて」
 声を殺して痛みに耐えている千鶴に声をかけた。
 眉を寄せる総司に、千鶴は泣きたくなった。
 きっと自分が初めてでなければ、彼を困らせなかっただろう。
 そんな思いが頭に浮かぶ。
「…ごめんなさい…ごめんなさい、総司さん…」
 突然顔を覆って嗚咽を上げる千鶴に、総司は瞳を見開いた。
「……痛い?」
 問うと、千鶴は緩くかぶりをふった。
「………無理そうならやめるよ」
 正直言って、ここでやめるのはかなり辛い。
 本音を言えば、無理にでも抱いてしまいたい。
 けれど、千鶴を傷つけるのは本意ではない。
「…違うんです…」
「じゃあ、どうして泣いてるの?」
「…私が……」
 初めてだから、総司さんを困らせてる…。 だから、悪いと思ったら涙が止まらなくなっちゃったんです。
 千鶴の唇から紡がれた言葉に、総司は翡翠の瞳を細めた。
「馬鹿だね、君は。こんな時にまで僕の心配をするなんて。…君は悪くないよ」
 千鶴の前髪をさらりと撫でながら、優しく囁く。
「でも……」
「……でも、何?」
 出来る限り優しく問いかけた。
「…島原の人と…比べたら…」
 その言葉に総司は困ったように微笑んだ。
「比べる必要なんてない。僕が欲しいのは君だから」
 比べられるわけがない。島原には付き合いで行っていたけれど、目当ては女より酒だ。媚を売られても嬉しくないし、遊びで女を抱くことに興味がないし、面倒臭い。それに、本気で女を抱いたことなど一度も無い。
「……君が初めてだよ。心の底から愛しいと想った女を抱くのは、ね」
 小さな声で呟やかれた言葉は、千鶴の耳に届くことはなかった。
 けれど、それでいい。
 千鶴に対する想いが本気の恋で、人生最後の愛だということは、自分だけがわかっていればいい。
「深呼吸してごらん?」
 千鶴は言われた通り深呼吸をした。
 少しだけ身体の力が抜けた気がする。
「総司、さん…」
「大丈夫?」
「…はい」
「好きだよ」
 総司が微笑みかけると、千鶴は潤んだ瞳で嬉しそうに微笑んだ。
「…総司さん、大好きです」
 千鶴の言葉に総司は頬を緩めて、桜色に染まった肢体へ口付けを落とし、細い身体に余すところなく優しく甘い愛撫をほどこしていく。
 千鶴の力が抜けた瞬間を逃さず、総司は自身を一気に彼女の中へ埋め込んだ。
「つ…っ」
 息を詰め顔を歪める千鶴の頬に、口付けを落とす。
「ごめん。痛かったよね」
「……へい…き、です」
「きつくない?」
 千鶴はこくんと頷いた。本当はすごく痛い。けれど、彼を我慢させたくなくて、嘘をついた。
 総司は嘘に気づいたが、指摘はしなかった。
「……爪を立てていいから」
 総司は千鶴に腕を自分の背中へ回すように言った。
 千鶴がぎゅっと抱きしめてくる心地よさに微笑んで、ゆっくりと動き始める。締め付けるようにきつかった千鶴の中が、少しづつ緩くなってくる。
 先程見つけた、彼女の弱いところを先端で突き上げると、自身が強く締め上げられた。
 絡めとるように蠢く千鶴の中は、想像以上に居心地がいい。
「……君の中、すごく熱くて溶けそうだ」
 総司の掠れた熱い声が、千鶴の快感へと変わる。
「…っ…は…っん、そ…じさ…っ」
 黒い瞳に涙を浮かべて、千鶴が切なげに喘ぐ。
「千鶴…っ」
 荒い呼吸をつきながら名を呼ぶと、涙で濡れた瞳が向けられて、いっそう愛おしさが募った。
 出逢った当時は興味の対象ではなかったのに、今はその影は微塵もない。
 どうしようもなく愛しくて、片時でも離れていたくない。
 …離したくない。
 総司は細い身体を抱きしめている腕の力を僅かに強めた。
「君を愛してる」
 貫きながら掠れた声で熱く囁いて、千鶴の柔らかな唇を奪う。吐息を塞いで、深く舌を絡めとる。
 口付けを交わしたまま、総司は更に千鶴を突き上げた。
 深く、強く。
 彼女の中が自分だけで満たされるように。
「っあ…ふっ……んあっ…」
 唇を放すと、すぐに甘い喘ぎが柔らかな唇から零れ落ちる。
「くっ…」
 瞬間強く楔を締め付けられ、総司は眉を寄せた。
 まだ、駄目だ。まだ、足りない。
「……もっと…千鶴が欲しい…っ」
 千鶴の耳を食みながら、熱く掠れた声で囁く。
 総司は額に汗を滲ませながら、腰を動かし続ける。
「そっ…じ…さっ……あっ、ん…ああっ」
 激しい動きに翻弄されながら、千鶴は必死に総司にしがみつく。ぴりっと小さな痛みが背中に走った。爪を立てるほど感じてくれているのだと思うと、嬉しくて頬が緩む。
 ぐちゅぐちゅと淫猥な音が静かな室内に響く。
 それに混じり聞こえる千鶴の甘く掠れた喘ぎ声と弾む吐息に、総司は微かに翡翠の双眸を細めた。
 千鶴を気遣う気持ちが少しづつ薄れていく。
 変わりに生まれるのは、彼女をもっと欲しいと思う、独占欲。
 今まで我慢していたツケがまわったのかもしれないな。
 そんなことを考えながら、総司は千鶴を快楽へと誘う。
「…っ…ああっ…っんう…ひあっ」
 びくびく震える身体から彼女の限界が近いことを悟る。
 総司は花園の入口ぎりぎりまで猛った楔を引き抜いて、千鶴の腰を抱き寄せながら最奥を突き上げた。
 高い悲鳴を上げて、千鶴の細い身体が仰け反る。
 総司は一際強い締め付けに小さく唸って、千鶴の中へ熱を吐き出した。
「……愛してるよ」
 微笑みを浮かべて甘く囁き、気を失った千鶴をぎゅっと抱きしめた。




【終】



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