初春




 新しい年の始まる日――今日は一年の始まりの日、元旦。
 あかねは泰明と神社に初詣に行く約束をしていた。
 時刻は午前10時を少しまわったところ。
 陽が昇り始め徐々に暖かくなってきたからだろう。神社は初詣に来た人々で溢れかえっている。
 その中を人をかきわけて急ぐ少女の姿があった。
 あかねは周囲をきょろきょろ見ながら、待ち合わせの鳥居前ですでに自分を待っているだろう泰明を探していた。
 すると鳥居から少し境内に入ったところに、ベージュのコートに身を包んだ泰明らしき人物が見えた。遠目ではっきりと見えないが、あれはきっと泰明だろう。こちらを見ているような気がする。
 あかねは人波の合間を縫うようにして、自分を待っている人物の元へ急いだ。
「泰明さん!遅くなってごめんなさ…」
 言いかけて、あかねは驚きに瞳を瞠った。
「え?泰明さんじゃな、い?よく似ているけど…」
 思わず食い入るように青年の顔を凝視してしまう。
 あまりにも泰明に似ている。まるで双子のようにうりふたつだ。
 呆然とするあかねの耳に、可愛らしい少女の声が聞こえた。
「あのー、あなた泰継さんのお友達、ですか?」
「えっ?あの…」
 あかねが咄嗟のことに反応できないでいると、泰継と呼ばれた青年が口を開いた。
「私の知り合いではない」
 泰継はきっぱりと言って、それでも不安そうに自分を見つめる少女を安心させるため、更に付け加えた。
「この者は私を誰かと間違えたようだ」
「そうだったんですか」
 それを聞いてやっと安心した少女は、ホッとしたように笑った。
 そんな少女を泰継は優しい色を浮かべた瞳で見つめる。
 二人のやりとりを側で見ていたあかねは、自分の勘違いに頬を赤く染めた。
「すみません。慌てていて人違いをしてしまいました」
 謝罪の言葉を唇に乗せて、あかねがぺこりと頭を下げる。
「問題ない」
 ふと、青年から返ってきた言葉にあかねはひっかかった。
(「問題ない」って確かにそう言ったよね。この人って一体…)
 顔も言葉遣いも、とても似ている。
 もしかしたら、泰明と関係があるのかもしれない。
 あかねが頭に疑問符を浮かべていると、先程の少女があかねに声をかけた。
「どうかしました?具合でも悪いんですか?」
「あっ、いえ、大丈夫です。それじゃ私はこれで…」
 そう言いながらあかねが踵を返した瞬間。
 その場を去ろうと後ろに振り返ったあかねは、顔に軽い衝撃をうけた。
 ぶつかった拍子に少し赤くなった鼻をさすりながら、顔を上げる。
「あかね、何をやっている」
「泰明さん!」
「鳥居で待っていると言ったではないか」
 呆れたように言われ、あかねは何も言い返せなかった。
「まあいい」
 泰明は嘆息交じりに言って、泰継へ視線を向けた。
 互いの緑色の瞳が宙で絡み合う。
「私の連れが迷惑をかけたな」
「いや、では私たちはこれで。…花梨、行くぞ」
「はーい」
 泰継は花梨の肩を抱き寄せると、神社の宮に向かって歩き出した。


 その二人の背中を見送るように見ていたあかねの耳に小さな声が届く。
「お前も神子に救われたのだな」
「泰明さん?何か言いましたか?」
 後ろを振り返ったあかねの瞳に、嬉しそうに微笑む泰明の姿が映る。
 彼がこんな風に嬉しそうに微笑むのは、滅多にない。
 どうしたのだろう、と首を傾げるあかねに、泰明はかぶりを振った。
「いや、何でもない」
「?」
「…参拝するのだろう?行こう、あかね」
 泰明はあかねの手を握ると、ゆっくりと歩き出した。


 ずっと一緒にいられますように…




【終】


W地の玄武×W神子。一度絡めてみたかったのです。
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