Dear.Fuji




 Kikumaru ver


 そろそろ家を出よう。
 そう思った時だった。
「不二〜!」
「えっ?」
 不二は驚きに色素の薄い瞳を瞠って、窓際へ駆け寄った。
 部屋の窓から外を見ると、玄関の門前で菊丸が大きく両手を振っていた。
 不二は窓を開けようとし、大声を出す時間ではないことを思い出す。
 こんな朝早くにどうしたんだろうと首を傾げて、コートを着、テニスバッグを左肩にかけると家を出た。
「お誕生日おめでとう、不二!」
 菊丸は元気よく言って、にかっと笑った。
「それを言いに来てくれたんだ?」
 英二らしいサプライズだ、と不二は頬を緩める。
「そ。今年は俺が二番乗りするぞ、ってね」
 その言葉は、すでに彼女からお祝いの言葉が届いているのを見越していた。
 見ていないようで見ている友達に、不二はクスッと微笑む。
「ありがとう、英二」
「うんにゃ。 じゃ、部活行こーぜ」
「うん」
 二人は肩を並べて歩き出した。




 Teduka ver


「なんだ?」
 久しぶりに聞いた第一声に薄く笑った。
 四年に一度の誕生日に届いた電報。
『おめでとう』とたった一言。
 それが手塚らしくて、変わっていないことに安堵し、また、覚えていてくれたのが嬉しかった。メールや電話ではなく電報という手段を用いての祝いは、時差を考えたゆえだろうと、些細な気遣いも手塚らしいと思う。
 それで国際電話をかけた。
「元気そうだね」
「ああ、お前もな」
「うん。 手塚」
「なんだ」
「ありがとう」
「…ああ」
 刹那空いた間は、手塚の照れくささの表れだ。




 Inui ver


 感じた視線に瞳を滑らせると、そこにいたのは眼鏡をかけた長身の男。
「……乾、何やってるの?」
「気にするな。ただの偵察だ」
 乾はどこから取り出したのか、ノートにペンを滑らせながら言った。
「偵察って」
 押し寄せる女生徒から逃れるべく教室を出てきた今の状況の一体何を、と不二は困ったように眉根を寄せる。
「閏年の効果についてだ」
 それが何の役に立つのだろうか。
「あ、不二」
「なに?」
「誕生日おめでとう」
 不二は一瞬瞳を瞠って、ついでいつもの微笑みを浮かべた。
「ありがとう、乾」
「ほら、プレゼントだ」
 そう言って乾から不二が渡されたのは、乾印のスペシャルバースデイバージョン乾汁だった。




 Oishi Ver


「大丈夫か、不二」
 自分が少しも大丈夫そうではない顔をして、大石は気遣うように言った。
「大丈夫じゃないかも」
「ええっ!」
 飛び上がらんばかりの大石に、不二はクスッと笑う。
「冗談だよ、大石」
「なんだ、冗談か。驚かせないでくれ」
 大石は見るからにホッとした顔をした。
「うん、ごめん。けど、ちょっとは思ってたんだ」
「そうか。大変だな」
 腕を組んで難しそうな顔をした大石は、不意に何かに気がついた顔をした。
「不二」
「ん?」
「誕生日おめでとう。 いやあ、言うつもりで声をかけたのにうっかり忘れるところだった」
「大石…。 ありがとう」
「今年は閏日だから、今日言わないとな」
 うんうん、と頷く大石からは人の良さが滲み出ていた。




 Kawamura ver


「不二、誕生日おめでとう」
「ありがとう、タカさん」
「はい、これ」
「え?」
 河村から短冊状の紙が渡された。
「プレゼント。何がいいだろうって考えたんだ。でさ、不二にはやっぱりこれだろうって」
 紙には『わさび寿司食べ放題 不二専用』と書いてある。
「握るのは俺だけど、よかったら来てよ」
「喜んで行かせていただくよ」
「そ、そう?」
 あはは、と河村は頭をかいた。
「フフッ。 タカさん、ありがとう」




 Echizen & Momosiro & Kaidou ver


「よー、越前」
「わっ、ちょっと何すんですか、桃先輩。重いっス」
 後ろからがばりと圧し掛かられ、潰れそうになりながら抗議する。
「もう言ったか?」
「何をっスか?」
 ようやく開放され、溜息をつきつつ越前は訊いた。
「不二先輩に」
「ああ、そのこと」
 脳裏に浮かぶのは、去年卒業した先輩の顔。
 いつもにこにこ笑っていて何を考えているかわからない人だが、テニスは抜群に上手い。
 その先輩の誕生日が今日――閏日であることは、越前も知っていた。
「朝偶然会ったんで言ったっス。 で、桃先輩は?」
「おい、お前ら」
「あ、海堂部長」
「練習中にサボるんじゃねぇ」
「ちょっと話してただけじゃねーか」
「部活のあとにしろ、タコが」
「んだと、こら。部長だからって――」
「まだまだだね」
 犬も食わないケンカを始める先輩二人に越前が言った時、テニスコートににわかにざわめきが走った。
 越前が視線を滑らせると、今頃は高等部で練習しているはずの不二と菊丸がいた。
 驚く越前と、取っ組み合いをしたままの姿勢の桃城と海堂の傍へ、二人は歩いてきた。
「あいかわらずだね」
 クスッと不二が微笑む。
「ほんとほんと」
「不二先輩、菊丸先輩、どうしたんスか?」
 海堂が部長らしく訊いた。
「後輩を鍛えにだよん。 ね、不二」
「ああ。 挑戦をされたし…ね」
「挑戦?なんスか、それ。 あっ、そんなことより、不二先輩!」
「ん?なに、桃」
「誕生日おめでとうございますっ!」
「ああ、ありがとう」
「おい、マムシ、お前も――」
「あ、桃。海堂には祝ってもらったよ」
「えっ…ええーーっ!?」
 テニスコートに桃城の驚いた声が響き渡る。
 不二と菊丸は何事かと目を合わせ、二人は同時に首を傾げた。




 From.SEIGAKU Players
 29 February 2012


END


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