どこまでも続く青い空
突き抜けるように、高く、遠く
それは手を伸ばしても届くことのない、あの人のようで
胸が痛くなる―――
空
「、どうかした?」
不意に後ろから声をかけられて、ふわっと体が包まれた。
背中から感じる温もりに、私はそっと体を預ける。
「ん…物思いに深けてたの」
抱きしめられていて動けないから、顔だけを後ろに向けた。
優しく微笑む旦那様の顔が目に映る。
「本当に?」
色素の薄い瞳が僅かに細くなって、私を見つめる。
いつもの穏やかな笑みは消えていた。
「本当はね…周助がアメリカに行ってた時のこと思い出してた」
3年前―――私たちが高校二年生だった頃。
周助はプロのテニスプレイヤーとなるために、アメリカに留学した。
高校生だった私には、彼を止めることも、ついていくこともできなくて。
周助を待っていることしかできなかった。
どんなに好きでも、どんなに想っていても、叶わないことがあると思い知った瞬間だった。
離れている彼を好きでいられるのか。
彼が私を想っていてくれるのか。
不安でいっぱいだった。
いつも私を見ていてくれる周助には、私の心なんてお見通しで。
留学に出発する日の前日、今日のように青く澄んだ青空の下で、約束をくれた。
こどもが何をって大人には言われることかもしれない。
けれど、それは生涯忘れることのない言葉になった。
「身勝手なのはわかっているけど、にお願いがあるんだ」
「お願い?」
ドクンと心臓が跳ねた。
最悪の言葉が頭を掠める。
手が、足が震えて止まらない。
やだ。そんなの絶対にいや。
「・・・泣かないで」
優しい声が耳に届いて。
周助にぎゅっと抱きしめられた。
「や…だ。周助と別れたく……っん」
全部言い終わらないうちに、唇を塞がれた。
熱くて深くて、思考が溶けてしまいそうなキス。
「…3年でいいんだ。僕を待っていて欲しい」
「え…?」
「プロになって、必ず君を迎えにくる。だから、待っていて欲しい」
「周…助…本当?」
周助の色素の薄い瞳は今まで見たことないくらい真剣だった。
でも、空耳じゃないって確かめたくて。
本当なんだって確かめたくて。
「僕にはが必要なんだ」
「周助…っ」
彼の胸に顔を埋めると、しっかり抱きしめられて。
「、返事を聞かせてくれる?」
「…待ってるから、絶対…迎えにきて」
顔を見て言うと、周助は優しく微笑んで。
「約束する」
「うん」
頷くと、周助のしなやかな指が私の頬に触れて。
「愛してる、」
私もって答える前に、優しくて甘いキスで言葉は遮られた。
あの日から3年が経って。
周助は約束通り迎えにきてくれた。
「体は痛くない?」
突然、耳元で囁かれて、体中が熱くなる。
周助の熱が体に甦ってきて、顔から火が出そう。
「…は、恥ずかしいから訊かないで」
「そういうわけにいかないでしょ。は初めてだったんだし。心配するのは夫として当然だろ?」
そ、それはそうかもしれないけど。
昨夜だって訊いてきたじゃない。
――答えるまで離してあげない
なんて意地悪を言うし。
答えても離してくれなかったし。
私は死にそうなくらい恥ずかしいのに。
「クスッ・・・可愛い」
愉しそうな声が聴こえて、あっという間に体を抱き上げられた。
「しゅ、周助?」
「大切な君に風邪を引かせるわけにいかないからね。そろそろ中に入ろう」
「ねえ、一人で歩けるわ。降ろして?」
「ダメ。僕がに触れていたいから…ね」
周助はフフッと笑って私の要求を却下する。
「空より僕を見ていて。僕はだけ見てるから」
そんなに真剣な瞳で言われたら、頷くしかないじゃない。
私だって空より周助を見つめていたいもの。
「周助・・・愛してるわ」
周助の首に腕を回して囁く。
すると小さく笑う声が聴こえて。
「僕もを愛してるよ」
「…うん」
私を離さないでね、周助
心の中で囁くと、周助の腕の力が少しだけ強くなった。
END
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