CD




 先程から繰り返し同じ曲が流れている。
 しばらくはおとなしく聴いていた周助であったが、一時間も同じ曲をかけられていては飽きるというもの。
 大切な恋人の大好きな曲だとしても、である。
 別にこの曲が嫌いな訳ではない。
 今日初めて聴いた曲だけれど、不快に感じた訳でもない。
 けれど―――。
「ねぇ、。そろそろ違う曲をかけない?」
 隣に座る恋人の顔を覗き込みながら、周助はそう切り出した。
 するとは不思議そうな顔をして、緩く首を傾ける。
「え?どうして?」
 彼女から返ってきた言葉に周助は僅かに苦笑する。
「もう一時間はこの曲を聴いてるよ?」
 面と向かってストレートに「聴き飽きた」とは言わず、遠回しに言った。不用意な言葉で彼女を傷つけたくはなかったから。
「ごめんね。 この曲が好きだから、つい」
 謝罪しながら、は慌ててデッキを止めた。曲が止まり、部屋に静寂が戻る。
「そんなに好きなの?」
 周助はばつの悪そうな顔をしているの顔を覗きこんで訊いた。
 するとはデッキからCDを取り出して、それをケースに戻しながら嬉しそうに頷いた。
「初めて聴いた時からお気に入りなの。タイトルも素敵でしょ?」
 嬉しそうに笑うに、周助は意味深に微笑む。
「王子は傍にいるのに?」
「え?」
「僕はだけの王子なのに、君はそうじゃないんだ?」
 周助は色素の薄い瞳を細め、口元に笑みを浮かべて訊いた。
 は慌てて首を横に振った。彼女の黒い瞳には、不二が怒っているように映ったらしい。
 実際はそうではなく、それは周助の作戦なのだが、は彼の思惑通りその甘い罠にはまった。
「そんなことないよ!」
「本当に?」
「本当よ」
「じゃあ、君の口からちゃんと聞かせて?」
「え…ええっ?」
「簡単でしょ?」
「か、簡単じゃないよ」
「そう?僕は言えるよ?」
 周助は秀麗な顔に極上の笑みを浮かべ、それは嬉しそうに言葉を続ける。
「僕のお姫様はだけだよ」
 周助は柔らかな笑みを更に深めた。その微笑みに思わず見惚れてしまう。
 そしての唇にそっと人さし指を這わせて、ことさらに甘く囁く。
「聞かせて?」
「………」
「言ってくれないと、君が言ってくれるまでキスするよ?」
 追い打ちをかけるように言うと、は真っ赤になりながら周助が望む答えを唇に乗せる。
「私の王子様は周くんだけよ」
 その言葉に周助は満足そうに微笑んで、の頬を両手で捕らえて薔薇色の唇に熱いキスを落とす。甘くて深い、呼吸を奪われる濃厚なキスに全身の力が抜けてく。の白い手からCDケースがカーペットの上に滑り落ちた。


『Some Day My Prince Will Come』




END



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