唇




 短期間の遠征を終えて、僕は帰路についた。
 ようやく の顔を見られる。
 可愛い声は毎朝、毎晩、電話越しに聴いたけど。
 それでも、早く君の笑顔を見て、可愛い声を聴きたい。
 柔らかな唇に触れたい。

 そう思う僕は、かなり に溺れてる。
 でもそれは当たり前だよね。
  は僕の最愛の人だから。

 短く2回、チャイムを鳴らす。
 これは僕だという合図。 と付き合い始めた時から、この鳴らし方は変わらない。
 少し待っていると、玄関の扉が音を立てて開いた。
「おかえりなさい、周助」
「ただいま」
 優しい笑顔で迎えに出てくれた を抱きしめて、可愛い唇に甘いキスを落とす。
 1回、2回、3回‥‥キスをして唇を離すと、 は頬を赤く染めていた。
「クスッ。まだ慣れないの?」
 朝も夜も、一緒にいる時はいつだってキスしてるのに。
 まだ恥ずかしがるんだね、 は。
「そういうわけじゃないけど‥‥」
「けど?」
 微笑みながら答え待つ僕に、 は上目遣いで僕を見つめて。
「……改めて訊かれてもわかんない」
 君って人は本当に可愛いね。
 誤摩化す必要なんてないのに。

 たまには素直に言ってくれてもいいんじゃない?

「素直じゃないよね、君は」
 わざとそんなことを口にしてみる。
 すると君は僕の想像通りの言葉を紡ぐ。
「そ、そんなことないわよ」
「フフッ。本当に って変わらないよね」
 君と出逢った時から今日まで――少しも変わらない。
 こういう可愛い所に、僕は惚れたんだって知ってた?
 君はきっと気づいてないだろうね。
「ねぇ、夕食の前に欲しいものがあるんだけど」
 微笑みを浮かべて言うと、 は首を傾けた。
 僕の好きな長く柔らかな髪が、サラリと流れる。
「え?…あ、紅茶飲みたいとか、そういう?」
 君の淹れてくれる紅茶はとても美味しいから好きだけどね。
 僕にはもっと大好きなものがあるんだ。
 世の中のどんなものより愛しくて大切で、誰にも譲れない大好きなものが…ね。
「残念。はずれだよ。…君を食べさせて欲しいな」
 耳元で囁くと、細い肩が微かに反応して。
 黒曜石のような瞳を丸くして、僕を見つめる。
「た、たべっ…て!?」
 真っ赤に染まった顔で慌てる は、すごく可愛い。
 結婚してるんだし、数えられないくらい肌を重ねてるんだから、そんなにあたふたしなくてもいいのに。
 3日振りだけど、なるべく押さえようって思ってたのに、押さえられそうにないよ。
 細い身体をぎゅっと抱きしめて、微かに赤く染まった耳朶に甘く噛みつく。
「明日は土曜日だし、可愛いをゆっくり食べさせてね」
 抗議しようとする柔らかい唇を深いキスで塞いで君の声を封じる。
 夕食前なのはわかってるけど、今すぐに君を抱きたくてたまらない。
 だから、ごめんね?
 君をゆっくり堪能させて。
 膝裏に腕を回し、全身から力の抜けた細い身体を抱き上げる。
「朝が来るまでの可愛い声、たくさん聞かせて?」

 白い波間で泳ぐ君の

 僕しか知らないの柔らかな唇

 蒸気して桜色に染まってゆく、なめらかな白い肌

 僕の名前を呼ぶ、甘くて可愛い声


 君の全てが どうしようもなく愛しい――


 甘い吐息が溢れる唇に深いキスを落として
「愛してるよ、
 耳元で愛を囁く
 喘ぐように息をついている唇が動いて
「しゅ…すけぇ…あい……てる」
 甘く震えた可愛い声が聴こえて
 柔らかな唇で僕にキスしてくれたの中へ熱くなったモノを押し進めた




END



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