電話 夜になって彼の声が聞きたくなった。 それは本当に突然で、自分でコントロールできない。 でも今は真夜中。 彼に会うことはできない。 電話をかけるという手があるけれど、彼は高校生で部活はテニス部。 明日も平日だから朝練がある筈。だとすれば、もう休んでいるだろう。 そう考えると、電話なんてできる筈がない。 不意に静かな部屋にクラシックのメロディが流れた。 携帯電話の着信音だ。 「こんな時間に誰・・・」 呟きながら見たディスプレイには、恋人の名前。 私はすぐに通話ボタンを押した。 「もしもし?」 「?ごめん、こんな時間に。もう寝てた?」 「平気、起きてた。なんだか眠れなくて」 「フフッ。実は僕もなんだ。のことを考えていたら眠れなくなってさ」 「私も…私も周助のことを考えてた」 なんとなく可笑しくなって笑ったら、電話の向こうで周助も笑っていた。 それからしばらく世間話をした。 たわいのない内容だけど、それでも心が温まってゆく。 すごく幸せな気持ちになる。 周助の声を聞いただけで癒されるなんて、私ってすごい単純なのかしら。 それとも、周助の魔法?――なんて、うわっ、恥ずかしいこと考えちゃった。 …でも本当に周助の魔法にかけられたみたい。 「ねぇ、」 「なに?」 「君に逢いたい」 耳に届いた甘い声に、携帯を持つ指に思わず力がこもる。 声を聞きたいと思っていたのに、実際に声を聞いたら電話なんかじゃ足りなくて。 周助本人に逢いたいって思ってしまった。 それは周助も、なの? 「私も周助に逢いたい」 「よかった」 周助がそう言ったのとほぼ同時に玄関の方で音がした。 視線を向けるとドアが開いていて、そこには今まで電話で話していた恋人がいた。 「周助!」 「フフッ、驚いた?」 「うん…」 夢を見てるんじゃないかって思って、頷くことしかできない。 「電話してが寝ていたら途中で引き返して家に戻ろうと思ったんだけどね」 そう言ってクスッと笑う周助に、夢じゃないってわかった。 「ご両親に怒られても知らないから」 私は照れ隠しでそう言った。 逢いに来てくれて嬉しいのに、気持ちを全て見透かされたようで、素直に言えない。 けど、周助はそんなことはお見通しだよって顔をして微笑む。 「のそういうところ、可愛い」 「…っ…か、風邪を引くといけないから上がって」 それだけ言うのが精一杯だった。 きっと一生周助には適わない でも、そんな周助を愛してるわ そう言ったら、少しは驚いてくれるかしら? ねえ、周助? END BACK |