tomorrow 部活の朝練が終わり、ジャージから学ランに着替えた不二は、部活仲間兼クラスメイトの菊丸と教室へ向かった。 並んで歩きながら話すのは、テニスの話題やテレビの話題だったり色々だ。 もっとも話すのは菊丸の方で、不二は相槌を打ったり、二言三言話す程度で、聞き役に徹していることが多い。 「英二」 階段を上がっていると、後ろから親しい友人に名前を呼ばれた。 菊丸が振り向くと、大石が困ったような表情で手にしたノートを振っていた。 それを見て、菊丸の茶色い瞳が丸くなる。 「あっ、俺のノート!」 「部室に忘れていたぞ」 「サンキュー、大石」 頬を掻きながら礼を言うと、大石はやれやれといった体で階段を上がってきた。 「ほら」 「ごめん、大石。助かった」 大石から差し出されたノートを受け取って、菊丸が拝むように両手を合わせる。 「うっかりしすぎだぞ、英二」 二人のやりとりを見ていた不二は、大石が説教を始めそうな気配に先に教室に行くことを決めた。 ここにいても仕方ないし、なにより恋人に早く逢いたい。 「英二、先に行ってるよ」 にっこり笑みを浮かべて菊丸の縋るような視線を一蹴し、不二は歩き出した。 昨日も今日も、明日も、不二がなによりも優先するのは愛しい彼女のこと。 英二も懲りないけど、大石も懲りないよね。 当人たちが聞いていたら怒りそうなセリフを不二は胸中で呟きながら、教室へ向かった。 珍しく閉まっている教室の扉を開けて教室へ入った不二は、いつものように恋人の元へ行こうとした。 すると、それより早くが不二の元へ駆け寄ってきた。 「周くん、おはよう」 「おはよう、。なんだか嬉しそうだね」 いつもより嬉しそうに微笑むにそう言うと、はうん、と頷いた。 弾むような声に、よほど嬉しいことがあったのだと不二は悟る。 彼女の笑顔が自分が引き出したのではないことが悔しいが、そんな素振りは微塵も見せない。 「わかる?あのね、これ見て?」 そう言って、は手に持っていた携帯を操作し、とある画像を表示させて不二に見せた。 画像を添付したメールを送信すればもっと早く見せられたのだが、どうしても直接見せたかったので、彼を待っていたのだ。 不二も好きなサボテンだから、花をつけたサボテンを見せた時の彼の顔が見たくて。 一緒に喜んで欲しくて。 「ね、可愛いでしょ。だから早く周くんに見せたくて。今朝起きたら咲いてたの」 そう言って微笑むは嬉しそうで、不二の顔にも自然に笑みが浮かぶ。 「そうだね。でも、の方がもっと可愛いよ」 食べちゃいたいくらい、ね。 耳元で囁いて、クスッと笑う不二に、の白い頬が瞬く間に赤く染まる。 「しゅ、周くんっ!」 は不二を睨み付けたが、赤く染まった頬で睨んでも効果はない。 不二は色素の薄い瞳を細めて優雅に微笑んだ。 「今日は無理だから、明日…ね」 意味ありげな視線で見つめられて、頬が熱く火照る。 そんな可愛い仕草を見せる恋人にクスッと笑って。 「は僕のだ、ってサボテンに教えてあげなきゃいけないし、ね?」 サボテンにまで妬かなくてもいいのに。・・・嬉しいけど。 が心の中で呟くと、まるでそれが聴こえていたかのように、不二は嬉しそうに口元を僅かに上げた。 「には僕だけを見ていて欲しいんだ」 不二はの耳元へ唇を寄せて、甘く掠れた声で言った。 は視線を泳がせたあと、ごく小さく頷いた。 余談だが、遅れて教室に来た菊丸は、友人とその彼女のラブラブっぷりにもっと遅くくればよかったと思ったらしい。 END BACK |