アイタイ。




、大丈夫?」
 休憩室で昼食をとっていると、 と同期であり友人でもある が顔を覗き込んだ。
「ん、大丈夫よ」
  は微笑んでみせるが、顔色は青白く、本人が言うように大丈夫なようには見えない。
「大丈夫そうに見えないわ。 ねえ。あんまり寝てないんじゃないの?」
「そんなことはないけど…」
 そう答えた彼女に、友人は深いため息をつく。
「二週間前に急に決まった仕事が忙しいんでしょ?」
「‥‥‥」
「何も言わない所を見ると図星のようね。…ったくあの上司は人使いが荒いのよ」
「仕方ないわよ。他にできる人がいないんだから」
 言うと、 の顔をじっと見つめて。
「確かにそうだけど、そんなに無理しなくていいんじゃない?」
「それはそうなんだけど・・・」
 別に急ぐ仕事ではないのはわかっているけれど。
 仕事に集中でもしていなければダメな理由がある。
「けど、なに?」
「なんでも。 じゃあ私、先に行くわね」
 深く問い質される前に、と は片付けた弁当箱を持って、席を立ち上がった。
 その瞬間、視界が暗闇になり、 は意識を手放した。



 瞳を開けると、見なれた天井が見えた。
「私・・・どうして部屋に・・・」
 ふわふわした温かなものに包まれている感覚に、ベッドにいるのだと気がついた。
 けれど、どうして自分の部屋にいるのか全くわからない。
、気がついたね。よかった」
 真横から聴こえた声に、 は ゆっくり視線を向けた。
 黒い前髪を梳きながら、不二が優しく微笑む。
「周助?・・・夢?」
 彼女の言葉に、不二は苦笑する。
「夢じゃないよ。話は さんから聞いた」
 そのセリフに は不思議そうに恋人の顔を見つめた。
 私、 に何か言ったかな?
「話って?」
「倒れた が、小さな声で何度も言ってたって」
 不二の謎かけのような言葉の意味が全くわからず、 は彼の次の言葉を待った。
 すると不二は嬉しそうにクスッと微笑む。
「周助…逢いたいって、君は言ってたらしいよ」
  は頬を瞬時に赤く染めて、それを隠すように布団を頭のてっぺんまで引き上げた。
 そんな彼女の仕種に不二はクスクス笑いながら、布団ごと細い身体を抱きしめる。
「ねぇ、 。君が逢いたいって言ってくれれば、僕はどんなに忙しくても の傍に飛んでくる。だから、我慢しなくていいよ」
 その言葉に、 は布団から少し顔を覗かせた。
「でも、もうすぐ大会で大変なのわかってるのに・・・」
 我が侭を言えるはずがない。
、もっと僕に甘えてよ。そうじゃなきゃ、男として立つ瀬ないじゃない」
「周助‥‥」
「仕事を忙しくして、少しでも僕のこと考えないようにしてたんでしょ?」
「・・・っ」
「やっぱりね。 君が僕の負担にならないようにしてくれてるのはわかるよ。でも、僕のせいで が倒れたら、僕は僕が許せない」
「そんな!周助は悪くないわよ」
 そう言って、 は身体を起こした。
「うん、だからね・・・」
 逢いたくなったら、すぐに逢いたいって言って
 倒れるまで我慢しないで
 それに・・・
「僕だって毎日想ってるんだ。 に逢いたいって」
「うん。・・・周助、逢いたかった」
「僕もだよ、
 蕩けるような笑顔でそう言うと、不二は柔らかい唇にそっとキスを落とした。
「明日は日曜日だし、今日はずっと一緒にいられるね」
「えっ?明日も部活でしょ?」
「そうだよ。でもここから学校行くからいいよ」
 笑みを深くする不二に は慌てた。
「でも・・・んっ」
 深いキスで抗議の声を遮って、不二は細い身体をベッドに押し倒した。
「もう黙って・・・。  、愛してるよ 」
 夜が深けるまで、二人は甘い時間を刻んだ。




END



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