No.1




「なあ、不二」
 先生の都合で自習時間になった三限目。
 配られた数学のプリントの問題を解いていると、隣の席の英二が話しかけてきた。

「なに?プリントは自分でやらないと身にならないよ?」
「そこをなんとか…って、そーじゃなくってさ〜」
「フフッ。ごめん、冗談だよ。で、なに?」
「あのさ、不二のNo.1ってなに?」

「え?」
 突然なにを言い出すかと思えば・・・。
 そんなことを訊いてどうするつもり?

「いきなりだね。突然どうしたの?」
 そう訊くと、英二は黒い瞳を宙に彷徨わせた。
 彼の表情は、何か隠してると言っているのも同然だった。
 だけど僕はそれに気付かないふりをして。

「知りたいなら、教えてあげてもいいよ」
「えっ?本当?」
 英二が大きな瞳を輝かせて、僕の机に身を乗り出してくる。
「僕のNo.1は・・・」
「No.1は?」
だよ」
 そう答えると、英二は机に突っ伏した。
 あれ?この答えは気に入らないの?
「どしてテニスだって答えにゃいのさ〜」
とテニスを天秤にかけるのは気に食わないけど、もしどちらかを選ばなければならないとしたら、を選ぶよ」
 5つ年上の社会人の彼女
 笑顔がとても可愛くて、もちろん拗ねた顔も可愛い
 僕の腕の中で、僕を見つめる涙に濡れた熱い瞳は、とても愛しい
 料理もお菓子作りも得意で
 すごく優しい
 でも、ちょっと鈍くて

 の全てが愛しくてたまらない

「教室で惚けるなよ、不二」
 惚けるなって言われても困るよ。
 先に質問してきたのは英二だよ?

 しかも、さっきなんて言った?
『テニスだって答えないの』
 そう言ったよね。 もしかして、誰かと賭けでもしたの?
 それとも、乾にデータ収集をしてくれって頼まれた?

 どっちにしても、このままじゃおかないよ――
「ねえ、英二」
「にゃに?」

「なにを賭けてたの?」
「今日の昼飯…」
 そこまで言って、英二は慌てて掌で口を押さえた。
 だけど、僕にはしっかり聞こえた。
「僕を賭けに使うなんて、いい度胸してるね」
 フフッと笑いながらそう言うと、英二の顔から血の気が引いていった。
「お、俺だけじゃないにゃ!桃だってそうだよ」
 クスクス。甘いね、英二。
 僕に勝つのは まだ早いよ。

「放課後の部活が楽しみだよ」
 最近は忙しくて、 と逢えないから、デートをしてない。
 電話やメールも毎日はできなくて、三日に一回程度。
  欠乏症の僕を賭けに使うなんて、運が悪かったね、英二。



 今日は の家に遊びに行こうかな。

 どうしようもなく、君に逢いたい――


 どこまでも続く青空を眺めて、僕は の笑顔を心に描いた。




END



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