赤い糸
放課後の教室で、彼氏である不二周助を待っている
に、同じく彼氏である手塚国光を待っている
が、突然そんなことを言い出した。「ね、 は赤い糸って信じる?」 さっきまでは再来週から始まる期末テストのことを話していたので、は面喰らった。 けれど目の前にいるの瞳は真剣で、話を逸らしてはいけないような気がした。 「赤い糸って【運命の赤い糸】のこと?」 「うん。 は信じる?」 「信じるっていうか…私の赤い糸は周くんと繋がってるから」 は白い頬をほのかに赤くに染めて言った。 照れながらも嬉しそうな顔をしている親友に、は深い溜息を零す。 「いいなあ…」 声には本当に羨ましいと思っているのがわかる響きがこもっている。 「だって手塚君と繋がってるでしょ?」 どうしたのだろうと思いながらも思ったことを口にしたが、は力なく首を横に振った。 「昨日ね、国光に思いきって訊いてみたの。そうしたら…」 「そうしたら?」 「俺にはわからないが、お前がそう思うならそうだろう、って言われた。あーあ、国光が不二君の半分でも優しければなあ」 「手塚君優しいと思うわよ?」 無口だけれど、きちんと周りが見えていて。 困っている時は、助けてくれる。 以前、が職員室から山のような量のノートを教室に運んでいた時、クラスが違うのに手塚は手伝ってくれた。ちなみに、三年六組の教室に戻った時、不二が意味深な微笑みを手塚に向けていたのだが、そのことをは知らない。そしてこの日以降、手塚がを助けることはなくなった。 「優しいのはわかってる。でもね・・・この質問を不二君にもしてみたの」 「いつの間に…」 「今日の昼休み。のことでちょっと…って呼び出して。そしたら、不二君はなんて言ったと思う?」 「んー…信じてるよ?」 「はずれ。不二君てば、僕の赤い糸はに繋がってるからね。以外に運命の人はいないよ、だってさ。しかも、ものすごい笑顔で言うから、聞いた私がびっくりしたわ」 だが、驚いたのも確かだが、が羨ましかった。 好きな人にこんなにも想われていたら、どんなに幸せだろう。 手塚と不二を比較することが間違っている、とわかっている。けれど、比べてしまうのが人の性だ。 不二のセリフを聞いたは、頬を真っ赤に染めた。 大好きな恋人にそう言われて、とても嬉しい。でも、臆面もなく言われるとやはり照れてる。 このセリフを本人の口から言われたら、とてもじゃないが不二の顔を冷静に見てはいられなくなる。 「私も国光に言って欲しいなあ」 手塚君に・・・・・・想像できない…。 言葉だけなら言うかもしれないけれど、そもそも手塚の笑顔を見たことがない。 「、落ち込まないで。手塚君、恥ずかしかったんだよ、きっと」 しょんぼりと落ち込む親友を励まそうと、が言ったと同時に教室の扉が開かれた。 反射的に二人が振り向くと、そこには――。 「国光!?」 複雑な表情の手塚と。 「周くん、部活は終わったの?」 嬉しそうに微笑む不二がいた。 不二はの言葉に首肯して、 教室の中へと入る。 「待たせてごめんね。帰ろうか」 「うん。…あっ、 ・・・」 黙ったまま手塚と視線を交わすに、は瞳を向ける。 「は手塚に任せよう。ね?」 の耳元に唇を寄せて、二人きりにさせてあげよう?と不二が言うと、 は頷いた。 不二の言うように、当事者同士で話すのがいいだろうと思った。 「 、手塚君。私たち、先に帰るね」 「じゃあね、手塚。 、また明日」 そうして二人は手を繋いで、教室を出ていった。 二人の後ろ姿を、は羨ましそうに、手塚は眉間に皺を寄せて見送った。 二人が教室から出て行くと、手塚は静かに口を開いた。 「昨日はすまなかった」 「え?」 「先程不二に言われた。が好きなら、ちゃんと伝えてあげなよ、とな」 手塚はよく見ていなければわからないほど、微かに目元を赤く染めている。 真剣な眼差しで手塚はを見つめた。 「俺の赤い糸の相手はお前だと思っている」 「いま・・・なんて・・・」 「二度は言わないぞ」 恋人から瞳を逸らした手塚の耳は、赤く染まっていた。 一方、教室を出たと不二は、廊下で聞き耳を立てていた。 は親友が心配で、不二は半分は好奇心、残りの半分は恋人との甘い時間を過ごすため。 だが不二は考えていることがに気がつかれるような素振りは一切見せない。 「ふふっ。手塚君てには弱いのね」 「そうみたいだね。でもね、僕もそうだって知ってるよね?」 不二の言っていることがいまいち理解できず、は首を傾けた。 そんな彼女に不二は楽しそうにう。 「僕は に弱いんだよ。特に の笑顔には適わないよ」 大好きだよ、。 耳元で甘く囁いて、柔らかい唇を指先でそっとなぞる。 そして耳まで赤く染めた彼女の頬にキスを贈った。 END BACK |