すき




 白い雪が空から地上に舞い降りるのを、ぼんやりと見ていた。
 音もなく降る雪はキレイだけど、少しだけ切ない気がする。
 そう感じるのは、自分にウソをついているから?

 私の周りには誰もいない。それは当たり前かもしれない。
 立春を過ぎたと言っても、冬と大差ないくらい寒い学校の屋上なんて、コートを着ていても寒いのに来ようと思わない。
 まして雪が降っているのにいるなんて、余程の物好き以外の何者でもない。
 別に屋上が好きだからココにいる訳じゃない。教室以外の場所ならどこでもよかった。
 でも、特別室は授業の時しか入れない。そうすると、残っているのは中庭か屋上くらい。
 なるべくなら人気のない所にいたくて、私は屋上に来た。
「くしゅっ‥‥」
 さすがにこの寒さの中に制服姿でいるのも限界になってきた。
 でも――
「教室には戻りたくない、な…」
 今は昼休みで、彼はきっと女の子に囲まれているだろうから。
 今年は閏年じゃないから、2月29日はない。
 だから、彼に…周助にプレゼントを渡すなら、今日か明日。
 卒業まであと数日となれば、下級生も同級生も、周助を好きな人にはラストチャンス。
「…学校休めばよかった」
 呟いて、雪が舞い降りて来る空を見上げた。
 その時、鈍い金属音が聴こえた。
「やっぱりここにいたのか」
 後ろから声が聴こえて、振り向くと周助がいた。
 いつも穏やかな笑顔の彼は、笑っていなかった。
「女のコが身体を冷やしちゃダメだろ」
 言いながら、肩にふわっとコートを掛けられた。
 茶色いダッフルコートから、微かにコロンの香りがする。
 あったかい…。周助に包まれているみたい。
 私は襟をそっと引き寄せた。冷えていた身体が温かくなっていく。
「…教室にいなくていいの?」
 訊くと、周助は切れ長の瞳をそっと細めた。
「僕が以外の女の子からプレゼントを受け取ると思う?」
 私を見つめる色素の薄い瞳はとても真剣で。
 周助はウソを言うような人じゃないから、これは彼の本心なんだと思う。
 彼の言葉はすごく嬉しい。嬉しいけど……。
「私なら平気だから…受け取ってあげればいいのに」
 平気じゃない。
 でも、周助の彼女だからって私に『受け取らないで』なんて言う権利はない。
 断るということは、相手の好意を傷つけること。
 大好きな周助に『受け取れない』って言わせることはできない。
 私の我が侭で周助を縛りたくない。
「できるわけないだろ。が泣くのを解っていて受け取るほど僕はバカじゃないよ」
 そう言って、周助は私の腕を引いた。
 急に腕を引かれてバランスを崩し、周助の胸に倒れ込むような形になった。
「お願いだから、僕のいないところで一人で泣かないで」
 背中に回された腕が苦しいくらいに私を抱き締める。
 そして、目元に彼の唇が触れて。
 私は自分が泣いていたことに、ようやく気付いた。
「僕が欲しいのは、からのプレゼントだけだ。僕が好きのは他の誰でもない、だけだよ」
 彼の背中に腕を回して、甘えるように胸に顔を埋めた。
 私の言っていたことは、ただの自己満足にすぎなかった。
 周助はいつでも私のことを想ってくれていて、欲しい言葉をくれる。
 すごく嬉しくて、とても幸せ。
 恥ずかしくて、なかなか言えないけど。
 今、すごく伝えたい。
 想うだけじゃなくて、声にだして伝えたい。
 『すき』って言葉じゃ足りない、私の気持ち。
「私…周助を愛してる」
 そっと顔を上げると、優しく笑う周助の顔が間近にあって。
 恥ずかしくなって瞳を閉じた。
 すると、クスッと笑い声が聴こえて。
だけを愛してるよ」
 優しいキスが唇に落とされた。
 触れるだけのキスは、周助の想いがたくさんこもっていて。
 熱くて頭の芯が蕩けそうだった。




END



BACK