My Princess 2




いる!?」
 3年6組の教室の扉を勢い良く開き、演劇部の部長である が言った。
 その声の大きさに驚きつつ、すでに登校していたは席から立ち上がって の側に駆け寄った。
ったら、朝からどうしたの?それに、何だか息が切れてるみたいだけど」
 の尋常ではない様子に怪訝そうに首を傾けては言った。
「どうしたもこうしたも、大変なのよ!」
 は大変だと叫ぶけれど、には彼女が何を言いたいのかわからない。
 わかるのは が興奮状態にあるということだ。
「少し落ち着いて、 。 …それで、何が大変なの?」
「原田君が急に胃が痛いって言い出して。それに顔色も悪いのよ」
「えっ?嘘でしょ?今日の劇どうするの?」
「本当だから焦っているんじゃない!」
 二人は顔を見合わせて異口同音に口を開いた。
「どうしよう?!」
「何がどうしようなの?」
「周くん!」
「不二君!」
 の声が重なった。
 周助の後ろには、なんとなく顔色の悪い菊丸と、眼鏡をかけているから表情がはっきりしないが、どことなく嬉しそうな乾の姿があった。
 けれど、二人はは気が動転しているため、菊丸と乾の様子に微塵も気がつかない。
「不二君っ!丁度良かった!」
 が周助の胸倉を掴む。
 さすがの周助もの行動に驚いたものの、自分の胸倉を掴む の手をやんわりどけて訊ねる。
、何がどうなっているのか、わかるように言ってくれない?」
「あっ、ごめん。今日は午後から新入生歓迎会があるでしょ?」
「うん。演劇部は劇をやるんでしょ? から聞いてるよ」
「それなら話は早いわ。実は王子役の原田君が急に具合が悪くなちゃったのよ。だからさ、不二君が代わりに出演してくれない?」
 の言葉に周助はにっこり笑う。
「もちろんいいよ。 嬉しいな、 共演できるなんて」
「何言ってんだよ、不二。自分で――」
「英二」
 何か言おうとした菊丸を振り返って、周助は意味深な笑顔を浮かべた。
 それはには見えていない。
 周助の無言の圧力に菊丸は何度も頷いて、口元を手で覆った。
 周助はそれに満足そうな笑みを浮かべると、再び に向き直った。
 すると今まで黙っていたが不安そうな表情で口を開いた。
「周くん、いいの?」
「ああ、困ってるみたいだし。の相手役なら喜んで引き受けるよ」
「不二君ありがとう!助かるわ!」
のためだからね」
「相変わらずラブラブね。劇でもその調子でお願いね、不二君」



 台本通り舞台は何事もなく進んでいった。
 ――途中までは。

 ベッドの上で眠り続ける姫に王子がキスをすると、魔女の呪が解け、姫が眠りから覚める。

 台本にはそう書かれていた。
 もちろんキスは本当にするのではなく、ふりをするという事になっていた。
 
けれど。

「姫、どうか目を覚まして」
 周助は眠る演技をしているの唇に、本当にキスをした。
 は驚き周助を引き剥がそうとした。けれど、後頭部は周助の右手でおさえられ、腰を彼の左腕で抱き寄せられているため、少しも身動きがとれない。
 更に周助のキスは軽いものから深いものへ変わったから、は手足の力が抜けてしまった。
 しばらくして、周助はようやく唇を離した。
「やっと目を覚ましてくれたね。僕のお姫様」
「しゅ…う…王子、様」
  顔はもちろん、耳まで真っ赤に染ながら、なんとか演技を続けた。
 けれど、この後に続く王子の台詞を誰が想像できたであろうか。
「これで君は僕のものだってみんなに証明できたかな?クスッ」
 このような周助の台詞を聞いてまでに演技を続けることができるはずもなく、
舞台そでに待機していた演劇部部員たちが一早く我に返って慌てて幕を下ろし、舞台は終了となった。

 余談だが、この事態のあと、に近付く男子生徒が少なくなったらしい。




END

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