My Princess an extra 「不二先輩」 「何?越前」 放課後部活動が終わった男子テニス部部室で、レギュラージャージから学ランに着替えながら、テニス部ルーキーの越前リョーマが三年レギュラーの不二周助に声をかけた。 「今日のあれやりすぎじゃないっスか?」 越前の言葉に着替えていたレギュラー陣がピクリと反応した。 着替えながらも、耳は確実に二人の会話をひろっている。 ちなみに越前が言った『あれ』とは、本日の午後の授業のかわりに行われた新入生歓迎会のことを差している。 その時間の中で各クラブの紹介が行われたのだ。 もちろん男子テニス部も例外ではなかった。けれど越前が言った『あれ』とは男子テニス部に関係があるのではなく、関係があるのは不二とその彼女のことだ。 「ん?あれって何?」 言われている意味がわかっていながら知らぬ素振りをする不二に、越前はムカッとしながらも言う。 「とぼけないで下さい。劇の中で俺の先輩にキスしたじゃないっスか。しかもディープキス」 面と向かって不二に言える者は少なく、越前のセリフに一部のレギュラー陣は心の中で拍手をおくった。 だが相手は不二である。一筋縄ではいかない。 「ああ、その事か。何?越前もしたいの?」 不二は越前を見下ろして、ニヤッと不敵に笑う。 けれどそれで引き下がる越前ではない。 負けじと応戦する。 「したいっスよ」 「僕はイヤだなぁ。越前とキスするのは」 そんな事は言ってないっ!!! 不二のセリフに越前を除くレギュラー陣全員が胸の内で突っ込みをいれた。 そして越前は。 「アンタじゃなくて、 先輩とに決まってるだろ!」 「まだ諦めないの?しつこいね、君も」 「アンタもね」 「は僕のものだよ」 「…卑怯なマネで他の男を陥れる男が彼氏じゃ先輩がかわいそうっス」 越前がそう言うと、不二の表情が変わった。 いつもの笑顔を消し、色素の薄い瞳を細めた。 「誰から聞いたの?」 「英二先輩」 越前は菊丸を指差してそう言った。 不二が越前から菊丸へ視線を移す。 「おチビのアホー!内緒だって言っただろーっ」 「英二。 に言ってないだろうね?」 不二の突き刺さる視線に菊丸は声を出せずに、ただコクコクと頷いた。 「そう、それならいいけど。言ったら許さないよ?」 纏う空気を凍らせて不二が言うと、菊丸は涙目になりながら何度も頷いた。 「いっ、言わない。絶対に言わないにゃ!」 「本当だね?」 「ほ、本当!絶対!」 「誓える?」 「不二、そろそろ許してやれ」 あまりにも菊丸が気の毒に見えたので、横から大石が口をはさんだ。 するとそれに同意するように手塚も口を開いた。 「大石の言う通りだ。そもそもお前の行動が行き過ぎなんだ。俺はお前に、ほどほどにしろと言っただろう」 「仕方がないだろ。原田は口で言ってもわかってくれなかったし。だから乾にも協力してもらったんだ」 「何?乾も共犯か?」 「共犯とは聞こえが悪いな、手塚。俺は新作乾特製野菜汁のデータが欲しかっただけさ」 「そういう問題じゃないだろ!」 異口同音に6人の突っ込みが入る。 手塚は眉間を指先でおさえて、吐き出すように言った。 「ともかく、だ。お前が を好きで大切にしたいという事は十分わかった。だが、これから先は騒ぎを起こすな」 「それは無理」 即答する不二に、手塚の眉間の皺が更に険しく刻まれた。 「何?」 「越前が少しも諦めてないからね」 「当たり前じゃん」 「しつこい男は嫌われるよ?」 「人のこと言えんの?不二先輩。独占欲の強い男も嫌がられるっスよ」 「それはないよ」 「やけに自信があるっスね」 「まぁね。 が愛してるのは僕だけだから」 「言ってくれるじゃん」 「本当のことだよ。 昨夜だって愛してるって僕の腕の中で可愛く言ってくれたよ」 不二の爆弾発言に、怒る者、赤面する者、慌てる者、データをとる者、八人様々な反応をしたが、心の中はひとつだった。 ( 先輩)は不二(不二先輩)のどこがいいんだろう。 END BACK |