Weak Point 僕が と付き合い始めて5年目の初夏。6月に僕たちは結婚した。 にプロポーズしたのは僕の誕生日。その日僕は22歳になった。 5年前のと――僕とが運命的に出会った時のと同い年に。 僕は何月に結婚式を挙げても構わなかった。できる限り早くと一緒に暮らしたかったから。 同棲ではなく、夫婦として。 でも、彼女が『6月の花嫁は幸せになれるんだって』と嬉しそうに、頬を薔薇色に染めて言うから、6月に結婚式を挙げた。 僕はいつ結婚しても を幸せにする自信があった。 なにより、大好きな可愛いの滅多にないお願いを叶えたかった。 「ただいま、 」 「おかえりなさい。お仕事お疲れさま、周助」 仕事から帰った僕を はいつものように出迎えてくれた。 『周助』じゃなくて『あなた』っていつになったら呼んでくれるのかな? …どっちでもいいか。君の笑顔が可愛いから。 僕は の笑顔に吸い込まれるように、唇にキスをする。 「…もうっ、周助」 不意打ちのキスに は抗議するけど、頬を染めて言われても効果がないよ? こんなところは年上と思えないくらいで、可愛くて好きなんだよね。 でもここでそう言うと、拗ねちゃって僕を見てくれなくなるからね。 拗ねてる君も可愛いけど、笑っている時が一番可愛いから。 だからおとなしく引き下がることにした。 「ごめん、我慢できなかったんだ。 着替えてくるね」 着替えてキッチンに向かうと、香辛料の香りがした。 「おいしそうな香りだね」 「でしょ?今日はチリ・コン・カルネよ。もう少し時間がかかるから、待っててね?」 「うん」 「あ、周助、喉乾いてない?アイスティー、飲む?」 「もらおうかな」 「ちょっと待ってね」 は慣れた手つきでアイスティーの用意をしてくれる。 その時、 彼女の足下を黒いモノが横切っていくのを僕は見た。 「 、足下にゴキブリが」 「えっ?」 彼女は足下にゴキブリがいるのを見て、素早くキッチンの隅に置いてある蠅叩きを手にとるとソレを叩いた。 「暖かくなってきたからかしら?嫌よね」 なんて言って は平気な顔をしている。 こういうところ僕としては嬉しくないんだよね。 だってさ、女の人ってゴキブリとか虫って苦手な筈じゃない? なのに君は平気なんだよね。 男としては「いや〜っ!」って抱きついてもらいたいんだけど。 少しでも頼ってもらいたいのに、活躍の場がない。 「、お風呂空いたよ」 「うん、ありがと」 そう言って がバスルームへ向かった、数分後。 「いやあぁぁぁっ!!!」 大きな悲鳴が聞こえた。 尋常でない悲鳴に驚き、すぐにバスルームへ向かった。 「!どうしたの!?」 バスルームのドアを開けて声をかけると、 が飛びついてきた。 「しゅ、周助!あ、アレ!!」 は半泣きになって僕にしがみつきながら、指先でバスルームの壁を差した。 震える指の示す先にいたのは。 「ナメクジ?」 「周助なんとかしてーっ」 瞳に涙を溜めて懇願されて、何とかしてあげたいのは山々なんだけど、がぎゅっとしがみついているから、身動きが取れない。 「、手を離してくれないとなんとかできないんだけど」 僕がそう言っても、 は首を横に振って離れてくれない。 よっぽどアレが嫌いみたいだ。僕だって好きではないけど、怖がる対象ではない。 仕方なくの華奢な体を左腕で抱きかかえて、空いている右手でシャワーのコックを捻った。 いきおいよく湯がでて、僕との体を濡らす。 シャワーを手に持って壁にへばりついているナメクジにかけると、それは排水溝へ流れていった。 「 、もう大丈夫だよ」 シャワーを止めてに 声をかける。僕に掴まりながら壁に目を遣った。 「ありがとう周助」 はホッと息をついて、僕から体を離した。 「ごめんね、周助。お風呂から上がったばかりなのに、濡れちゃったね」 先程いきおいよく水を出したせいで、僕は全身ずぶぬれだった。 そんな僕を気遣って は言ってくれたけど、僕はそんな事よりも・・・。 「 、僕の事より自分の心配をした方がいいかもよ?」 「え?」 「いくら僕でも、裸で抱きつかれたら理性がもたないよ」 「!!」 僕に背を向けてバスルームから出ようとする を背後から抱きしめて、耳元に唇を寄せた。 「 、責任とってね」 END |