シャッターチャンスは一度だけ!




 午前中の授業が終わり昼休みになったので、はいつものように親友のと向かい合って座り教室弁当を食べていた。
「今日はいい天気だね〜」
 が窓の外を見てそう言うと、同意するようにも頷く。
「そうね。この天気なら部活も安心してできるね」
「へ?演劇部は天気がよくないと安心して活動ができないってこと?」
「やだ、違うわよ。テニス部」
 の返答にはやれやれとばかりに肩をすくめ、思いきり溜息をついた。
「全く私といてもは不二君優先なんだから。 ほんとたちってラブラブよね」
 改めて指摘されて、はしどろもどろになりながらも反撃する。
「そ、そんなことない。普通よ、普通」
 そう返すとは呆れたような表情になった。
「そう思ってるのはだけよ?周りから見たらラブラブカップルにしか見えないわ」
「・・・やっぱりそう見えるの?」
 心当たりがあるのか確認するように言ったはしっかり頷いた。
「でも、仲が悪いよりはいいんじゃないの?」
  がそう言うとは顔に笑みを浮かべて頷く。
「そうよね」
「それより、今日くらいは私に付き合ってもらうわよ」
「何、突然」
「さっき言おうと思ったのに、話が脱線しちゃったんだから仕方ないでしょ」
「ごめん」
「謝らなくていいよ。面白かったから」
「そ、そう」
 苦笑いを浮かべるを気にせず、は言った。
「昼休みはいつも不二君にをとられるけど、今日は私に付き合って」
「ええ。何に付き合えばいいの?」
「食べ終わったら屋上に行こうよ。風が気持ちよさそうだし」
「あ、それいいわね」
「でしょ」
 二人は弁当を食べ終わると、屋上へ向かった。



 が鈍い音をさせて屋上へ続く扉を開ける。
 屋上は予想以上にさわやかな風が吹いていた。
  んーっと伸びをしながら、は風を体全体で受け止めた。
「は〜っ、気持ちいい〜〜」
「本当ね。でも、髪が絡まりそう」
「あははっ。は髪が長いからね。もっとフェンスの方に行ってみよ」
「うん」
 二人はフェンスの金網に手を掛けて、駆け抜けるように吹くさわやかな風をしばらくの間楽しむことにした。

「何だか絵になってるよ、
 の長い髪が風になびく姿を見てが言った。
「またそういうこと言って」
 そう言いながらも言われて悪い気がするはずもなく、 は照れながらも笑った。
「ほんと先輩が風に髪をなびかせてるの可愛いっスよ」
 不意に割り込んだ声に二人は驚いて、声がした方へ視線を向けた。
 そこにいたのは、青学テニス部一年の越前リョーマだった。
 は噂に聞いたことはあっても実際に越前に会ったのは初めてだった。
 一方、はテニス部によく見学にいっているので、越前とは顔見知りだ。
「越前君、いたの?」
「うん、さっきから。それより、俺のこと名前で呼んでって言ったでしょ」
「え、それは無理だってこの前も…」
「不二先輩が妬くから?」
「う、うん。たぶん妬くと思う」
「は〜っ。全く不二先輩ってああ見えて独占欲強いよなあ」
「やっぱりあなたもそう思う?」
「アンタ誰?」
「私はの親友の。で、やっぱりあなたも不二君て独占欲が強いって思ってるのね」
「当然じゃん」
「この前の新入生歓迎会でもさあ――」
  は越前とウマがあったらしく、不二について熱く語りだした。
 そんな二人をは複雑な表情で見ていた。
 確かにも不二は独占欲が強いと思う。でも、それを承知の上で好きなのだからどうしようもない。
 それに、その独占欲も心地よいと思う自分がいるのも確かで、結局は口を挟む事なく傍観してしまう。

 しばらくして、屋上に新たな人物が現れた。しかしと越前の二人は、和気あいあいと話していて気がつかなかった。
 その人物は風に髪をなびかせ立っているを視界にとらえ、一瞬驚いた表情をした。
 けれどすぐにいつもの笑顔に戻り、 声をかけた。

 大好きな声で名前を呼ばれてが満面の笑みで振り返るのと、不二がシャッターを切ったのはほぼ同時だった。
「え、いま写真撮った?」
「うん」
 不二は構えていたカメラを下げて頷き、優雅に微笑んだ。
「いい写真が撮れたよ。まさにシャッターチャンス」
「えっ、私のこと?」
「もちろんだよ。とても可愛く撮れたよ」
「不二先輩、いい所にやってくるっスね」
「やあ、越前。ずいぶん楽しそうにしてたじゃない」
先輩が一緒だったからね」
 
不二の醸し出す冷ややかな空気に怯まず、越前は言い返した。
 二人の険悪な雰囲気にが「どうしよう」と顔を見合わせているそこへ、とつぜん突風が吹いた。
 その風にの長い髪が舞い上がり、 の制服のスカートがめくれそうになる。
 とっさに二人はスカートがめくれないようにおさえたのだが、は髪とスカートの裾を同時におさえようとして、出遅れてしまった。
 そのため一瞬だがスカートがめくれ、白い太腿と桜色の下着が見えてしまった。
 さらに間の悪い事に不二と越前に見られていた。
 二人の視線に気がつき、は顔を真っ赤に染めた。
「…見えた?」
 問われて、不二と越前は同時に口を開いた。
「「少しね」
 本当はかなり見えたけど、とこれまた同じことを胸中でつぶやいた。
 不二が越前に鋭い視線を投げる。
「越前、は僕の恋人だからね」
「知ってますよ。だから何スか」
「今見たことはきれいさっぱり忘れるように。いいね」
「………不二先輩も忘れるんスよね」
「僕はいいんだよ恋人だから。それより越前、返事は?」
「……わかったッス」
「いまの間は何かな」
「気のせいっスよ」
 またしても二人の言い争いが始まってしまったのを、は先程の赤い顔はどこへやら、困ったように見守っていた。
 
は不二と越前がの争奪戦を始めてしまったので、巻き込まれないうちにを残してさっさと教室に戻っていた。
 その後しばらくの間、 を置き去りにした罪で、越前はが恥ずかしさのため避けていたので、口を聞いてもらえなかった。
 不二だけが変わらずに口を聞けたのは、のみぞ知る。




END

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