今日は夏休み2日目。
 と周助は青春台にあるデパートで、買い物を楽しんでいた。
 デパートの中の水着売場で、は水色のワンピースの水着を手にして振り返った。

「ね、こんなのどうかな?」
 は緩く首を傾げた。
 周助は顎に手をあて、思案気な表情だ。
「似合うだろうけど、色が向きじゃないね」
「そうかな?」
 涼しそうな色でいいと思うのだが、周助は向いていないと言う。
 せっかく買うのだから、自分でいいなと思ったのと、周助が似合うと言ってくれる色にしたい。
にはもう少し明るい色が似合うよ」
「たとえば?」
「ピンクとか。君は肌が白いし、優しい色が似合うよ」




 Middle of summer




 夏休み前日のホームルームが終了した教室は、生徒たちの和気あいあいとした声で埋め尽くされている。
 教室のそこかしこで夏休みに何をするか、どこに行くのかなどの話題で盛り上がっていた。

「ねーねー、。部活が休みの日、海に行こうよ」
 に話を持ちかけたのは、クラスメートであり親友のだ。
 2人は同じ部活に所属しているため、普段から仲がいい。たまにの恋人である周助が妬くこともあるくらいだ。周助をよく知る彼と同じ男子テニス部レギュラー陣に言わせれば、「独占欲が異常に強い」となるらしい。
「魅力的な誘いなんだけど…」
「けど?」
「今年はまだ水着をどうしようか迷ってて。新しいのが欲しいとも思うんだけど」
「だったら、明後日、一緒に買いに行こうよ。私新しい水着が欲しいし、部活は休みじゃない」
「……そうしようかな」
 少し考えてが同意した直後。
「何を楽しそうに話しているの?」
 にこやかに話しかけてきたのは、の恋人だ。
 狙ったようなタイミングで姿を見せた周助には少し嫌そうな顔をし、渋々といった顔で口を開いた。絡みで隠し事をすると、ろくな目にあわない――気がする。

と海に行こうって話していたのよ」
「そうなんだ。ねぇ、他にも話してたよね。水着がどうのって」
と水着を買いに行こうって」
「いつ?」
「明後日よ」
「僕も行っていいかな?」
「え?周くんも?」
「ダメかな?」

「そんなことはないけど、つまらないかもよ?」
「それはありえないよ。が一緒なんだから」

 にっこり笑って言う周助に、が呆れた声で口をはさんだ。
「ちょっと、私もいるんだけど?」
「わかってるよ」
「それならいいけどね。 あ、でも……」
 に視線を向けた。
「明後日は不二君と2人で水着を買いに行って」
「たった今一緒に行こうって話したばかりじゃない」
「暑さ以外の熱さにあてられるの嫌だもの」



「あっ、これ可愛い。これはどう?」
 は周助の薦めに従い、先程からピンク色の水着を物色していた。
 そして、ピンクと白のギンガムチェックの可愛い水着を見つけた。
 これなら周助も似合うと言ってくれるだろうとは思った。
 けれど、周助は首を横に振った。
「絶対にダメ」
「どうして?」
「ビキニだから」
「ビキニのどこが問題なの」
 
顔に大きく不満と書いて問う。
肌を必要以上に見せたくないからに決まってるだろ」
 周助は当然とばかりの顔をするが、は納得できない。
「周くんのせいで全然決まらないじゃない!」

 怒りで頬をぷくっと膨らまる と対照的に、周助はにっこり笑って水着を差し出した。
 彼が持っているのは、白地に淡いピンクの花柄の水着だった。
「こういうのが似合うと思うな」
「そうかなあ?」
 花柄はハードルが高い気がして躊躇する。
「きっと君にぴったりだよ」
「…そうかな。じゃあ試着してみる」
 周助がそこまで言うのなら、とは彼から水着を受け取った。


 8月上旬。
 夏休み前日の約束通り、は海に遊びに来ていた。
 天気はとても良く、雲一つない快晴で、絶好の海日和だ。
 は浅瀬で彼氏とビーチボールで遊んでいる。
 当初はの2人で海に来る予定だったのだが、周助がを一人にするなどするはずがなく、3人で来ることになってしまった。
 ゆえには、あてつけられるのは嫌だから、と彼氏を誘っていた。
 そしては、ブスッとした顔で浜辺で砂の城を造りながら、たちを羨ましそうに見ていた。
 そんなに、彼女と一緒に砂の城を造っている周助は首を傾げた。
「どうしたの?つまらない?」

「つまらないわ!せっかく海に来たのに泳げないなんて」
「そう?僕は楽しいけど」
「これのどこが楽しいのよ」
 は砂をザクザク�手で弄りながら、不満を隠さない。
 新しい水着を買って楽しく海で遊ぶはずだった。
 それなのに、自分がいるのは砂の上。
 しかもこの暑い中「の水着姿を他の男に見せたくない」と周助に強引に彼のシャツを着せられて、浜辺で砂遊び。
 これに文句を言わない人はよほど心が広いに違いない。

 周助はふてくされて砂を弄るにクスッと笑って瞳を細める。
「僕が楽しい理由はね、といるからだよ」
「反則……」
  がむうっと頬を膨らませ、少し赤くなった顔でつぶやく。
 周助は満足そうに、いつも以上の笑顔で微笑んだ。





END

藤名翠様 主催「Sweet summer time with S」投稿/再録

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