Take a nap




 夏だけど、今日は少し涼しい。
 でも、風を感じたくなって、部屋の窓を全開にした。
 心地よい風が部屋の中に入ってくる。
 部屋の中央に置いてある座椅子に座って、瞳を閉じた。
 外からうるさいほどセミの声が聞こえてくる。
 少し涼しくてもやっぱり夏だなと感じる。
 
 肌を撫でる風が気持ちいい。

 そのうち私の意識は微睡みの中へ落ちていった。



入るよ?」
 部屋のドアを軽く叩いて、彼女の返事を待つ。
 けれど、今日はいつものようにからの返事がない。
 不思議に思いながら僕はドアを開けた。


 そこには天使が眠っていた。


、そんな格好で昼寝してると風邪引くよ?」
 いくら夏とは言え、何も掛けないで寝ていては風邪を引いてしまう。
 でも彼女はまだ夢の中を散歩中らしい。
 気持ちよさそうにうたた寝をしているを起こすのは忍びなくて、テニスバッグから今日は袖を通していないレギュラージャージを取り出して彼女にそっと掛けた。



 夢の中に周くんがでてきた。
「周くん」
 名前を呼ぶと、にっこり笑った。
 それが嬉しくて私も笑った。
「起こしちゃった?」
 よくわからないけど、周くんがそう訊いてきた。
 夢だからかな?
 話が繋がってないみたい。
 でも夢だったら現実に言えないことを言ってもいいよね。
「お願いがあるの」
「なんだい?」
「膝枕して欲しいな」
 そう言うと、色素の薄い瞳が驚きに見開いた。
 でもすぐにいつものように微笑んだ。
「いいよ」
 彼の膝に頭をのせると、周くんの大きい手が私の髪を優しく梳いてくれた。
 くすぐったくて。でも心地よくて。


 私は夢の中で夢を見た。



 柔らかな黒髪を撫でながら、膝の上の彼女の寝顔を見つめる。
 とても幸せそうな寝顔に笑みが溢れた。
「こんなに可愛いを見られるなんて思わなかったよ。フフッ。突然遊びに来て正解だったかな」
 夏休みはほとんど毎日が部活で、中々彼女と逢えなかった。
 でも今日は竜崎先生の都合で、早めに部活が終わった。
 だからに逢いたくて、こうして彼女の家に来た訳だけど、のこんな姿を見られるとは思ってなかったよ。




「……ん」
 重い瞼を開けると、大好きな彼が私を見ていた。
 夢なのにやけにリアルで、私は思わず彼の顔に手を伸ばした。
 でも私の指は彼の顔に届く前に、彼の手に捕まえられた。
 私の手は繋がれたまま、彼の口元へ持っていかれ、手の甲にキスが落とされた。
「いい夢は見られた?」
「夢…?」
「幸せそうに眠っていたよ」
「え……」



 は瞳をパチパチさせたあと、大きく瞠った。
「周くん…本物?!」
「クスッ、気持ちよさそうに寝てたね」
「やだ…っ」
 がばっと身を起こしたは真っ赤な顔で口元を押さえて、 僕を上目遣いに見た。
「照れなくてもいいのに。可愛い」
 彼女は下を向いてしまった。
 でも何かに気がついたようで、すぐに顔を上げて僕を見た。
 は胸元で僕のジャージをギュッと握っている。
「このジャージ…周くんの…」
「ああ。風邪を引くといけないからね」
「あ、ありがとう。…その…ごめんね」
「なにが?」
 ひざまくら、ととても小さな声が耳に届く。
 恥ずかしいのだろうけど、それがとても可愛くて、からかいたくなってしまう。
「謝らなくていいよ。でも…」
「でも?」
「今度に膝枕して欲しいな」
 は複雑そうな顔をして、ジャージに顔を埋めると頷いてくれた。





END


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