Call 僕には付き合って二ヶ月の彼女がいる。 大輪の薔薇のような華やかさはないけれど、菫の花ように凛としていて可愛い。 どんなところが可愛いか、なんて挙げたらきりがないけど。 名前を呼んだらふわりと優しい笑みを浮かべて、僕を見てくれる。 澄んだ声は月の光のようで、いつまでも聞いていたい。 「好きだよ」 そう言うと、白い頬を赤く染めながらも「好き」って言ってくれるところも。 それから、拗ねた顔もすごく可愛い。 泣き顔は見たことないけど、きっと可愛いと思う。まあ、泣かせたいとは思わないから、見たいというわけじゃない。好きな子を悲しませるような事はしたくないし、傷つかないように守りたい。 僕は表情が豊かで可愛いが大好きなんだ。 けど、ひとつだけ不満なことがある。 それは―――。 「不二くん、待たせてごめんなさい」 「全然。僕もいま着いたところだから」 弾む息を整えながら謝るに笑いかけた。 するとはほっとしたように、僅かに赤く染まった白い頬を緩めた。 「よかった。 家を出る時、ちょうど国光君が来たの」 可愛い唇で紡がれた名前に、僕の中に嫉妬が生まれる。 そう、僕の不満の原因はこれ。 は恋人の僕を苗字で呼ぶのに、手塚を名前で呼ぶんだ。 手塚が君の幼馴染みなのは知っている。 だけど、付き合って二ヶ月も経つんだし、僕のコトも名前で呼んで欲しい。 「ねぇ、。手塚は【国光君】なのに、僕はいつまで【不二くん】なの?」 こう訊くと、君はいつも誤摩化すけど。 今日はさせないよ。 ぐいっと細い身体を抱き寄せて、腕の中に閉じ込める。 「ふ、不二くんっ!?」 白い頬を真っ赤に染めて驚いているけど、離すつもりはない。 いつまでも呼んでくれない君がいけないんだよ、。 「周助って呼んでよ」 柔らかな唇の輪郭を辿るように指を這わせると、耳朶まで赤く染まった。 「…っ…呼ぶ…から、離して」 僕の胸を手で押して逃れようとするを更にぎゅっと抱きしめる。 「ダメ。呼んでくれるまで離さない」 瞳を逸らそうとするのを白い頬に手を添えて阻止し、黒い瞳をじっと見つめる。 「…僕が妬いてないと思うの?」 「え…?」 「がアイツの名前を呼ぶ度に、僕は嫉妬でオカシクなりそうなんだ」 「不二くん…」 「ほら、また」 「あ、その…」 「呼んでくれないの?」 耳元で囁くと細い肩がびくりと震えた。 …敏感なんだね、。 こんな時でも新しい君を見られて嬉しいよ。 でもね、今欲しいのは違うんだ。 欲しいのは君の声。 君の声で呼ばれる僕の名前が欲しい。 だから、呼んでよ。 「しゅ…うすけ…くん」 照れを含んだ小さな声が耳に届いた。 だけど――。 「ダメだよ。周助って呼んでって言っただろ」 「そんな…急に呼び捨てなんて」 「呼んでくれないなら、僕もを苗字で呼ぶよ?」 は泣き出しそうに瞳を潤ませて僕を見上げた。 「……周助」 「やっと名前で呼んでくれたね。 フフッ、嬉しいよ」 華奢な身体を抱きしめている腕に少しだけ力を込めて抱きしめ直す。 が恥ずかしそうに身を捩るけど、離したりしない。 呼んだら離す。 そんな約束をしたけど、可愛い君を離せる訳がない。 「大好きだよ、」 耳元で囁いて、赤く染まった頬にそっと口付けた。 END 初出・WEB拍手 再録にあたり修正・加筆 BACK |