Winter Garden




 見上げた灰色の空から、天使の羽のように雪が舞い降りてくる。
 遊び疲れた二人が転がった大地は、どこまでも白く染まった白銀の世界。
 熱を持った身体とは反対に手はとても冷たいけれど、どちらともなく繋いだ片手だけは暖かい。
「すっかり冷たくなったね」
「周ちゃんだって」
 お互い様だね、と周助はクスッと微笑む。



「こんなに雪が降るのは久しぶりだから遊びたいな」
 がそう言ったのは、一緒に下校した時だった。
 今日は土曜日で授業は午前中で終わりで、雪のため部活動は禁止するようにと通達があった。予報では夜にかけて大雪になる恐れがあるので、アクシデントを事前に防ぐための学校側の措置らしい。ほとんど一斉下校となったため、昇降口から出るまでが大変だったけれど。
「じゃあ、雪だるまでも作ろうか」
「うん!」
 嬉しそうに黒い瞳を輝かせるに周助は柔らかな笑みを浮かべた。
 彼女のなにげない仕草のひとつひとつが可愛くて仕方がない。
 雪遊びに付き合うだけで喜んでくれるならいくらでも、と思ってしまう。
「着替えたら周ちゃんちに行くね」
「うん、待ってるよ」
 そうして二人は家の前で一旦別れた。


 寒くないようにスノーブーツ、コートにマフラー、手袋と防寒対策をし、は不二家を訪れた。
 周助と雪遊びするのは久しぶりで、の心は弾んでいる。クラス全員で集まって雪合戦や巨大雪だるまを作るのも楽しいけれど、好きな人と二人だけで遊ぶのも楽しい。
 ソフトボール程の雪球を作り、雪の積もった大地を転がしていく。小さかった雪球は少しづつ大きくなり、鞠くらいの大きさになった。けれど、思うように丸くならない。
「……うまく丸くならないなあ」
 彼はどうだろう、と雪だるまの胴体部分を作ってくれている周助へ視線を向ける。彼が転がして作っている雪球はちゃんと丸く出来ていた。
 どうして丸くできるのだろうと思ったが名を呼ぶと、色素の薄い瞳が向けられた。問うように首を傾げる周助の傍へは駆け寄る。
「丸くならないの」
 の両手に乗せられた雪球を見れば、確かに少し歪だ。けれど彼女が気にしているほど丸くない訳ではない。
「ちゃんと丸く出来てるみたいだけど」
「周ちゃんみたいにしたいの」
 ちょっと拗ねたような顔のが可愛くて、周助は切れ長の瞳を少しだけ細めた。
「ちょっとしたコツがあるんだよ」
 そう言ってコツを教えると、拗ねていた表情は一瞬にして満面の笑みに変わる。
「本当だ、丸く出来る。周ちゃんすごい!」
「大げさだよ」
「大げさじゃないよ。ありがとう周ちゃん」
 嬉々としては周助が教えてくれた通りに雪球を転がしてゆく。数分後、雪球は両手でなんとか囲える程の大きさになった。
「できた」
「僕の方もできたから乗せてみよう」
 の作った雪球は彼女が張り切って作ったこともあり、40センチ程の大きなものになっていた。それを二人で周助の作った雪だるま胴体になんとか乗せる。
 目には炭団がないので、視力のいい周助が何故か持っていた伊達眼鏡をかけ、小枝で口を作り、太めの枝を腕がわりに、最後に雪だるまの頭に赤いバケツを乗せた。
「きゃー、完成ー!」
 はしゃいだ声を上げて雪だるまをじっと見たは、ふと雪だるまが誰かに似ていると思った。
「ねぇ、周ちゃん。この雪だるま乾君みたいに見えない?」
 それが周助の伊達眼鏡――とは思っているが、実は乾の予備眼鏡で、その眼鏡のせいだと言う事に彼女は気がついていない。
「見えるね」
 眼鏡のせいだと言うのを知っていながら周助は同意する。が、失敗したと思った。乾に見える雪だるまは面白いけれど、このまま置いておくのは少し嫌になった。が帰ったら眼鏡を外して父さんのサングラスでもかけておこう。



 雪で濡れて冷たくなった手袋を外した手は雪に触れて冷たい。 
 けれど、触れあう指先から感じる温もりが心地よい。
「…雪、冷たいね」
 の柔らかな唇から白い吐息が零れ、宙に霧散する。
「そろそろ起き上がる?」
 そう訊いたのは、もう少しだけこうしていたいと思ったから。
「もうちょっとだけ、こうしてたいな。…ダメ?」
「ダメじゃないよ。僕も賛成」
 周助はにっこり笑って、白い頬をほんのり赤く染めて笑うの細い手を暖めるように手の繋ぎ方を変えた。




END



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