いまでも、君を 集合場所に指定されている店に入ると、ほとんどの人が集まっていた。 「あ、。遅かったね」 「ごめん、仕事が終わらなくて」 手を振る友人に答えて、周囲を見渡す。 十五分程来るのが遅かっただけなのに、今日はほぼ全員がすでに集合していて、空いている席は2席しかなかった。できるなら、仲のいい友人の傍か、同じテーブルに座りたかったのだが仕方がない。 けれど、その空席の場所が問題だ。 あまり話した事がない元クラスメイトの近くよりはいいのだけれど、なぜか空いているのは、が好意を持っている人の向かいの席と、その右隣の席だった。 誰かが故意的に空けているのではないか、と思わずにいられない。 視線を親友へ向けると、ウインクが返された。 どうやら本当に故意――図られたらしい。 卒業して五年以上経過する今も想いを伝えられず、更に想い続けている自分に気を遣ってくれたのは嬉しい。 けれど、全く予想外の事で心の準備はないし、している時間もない。 はドキドキしながら、彼の右隣の席へ向かった。 席へ着いたはいいが、周囲は男性ばかりで、その上ほとんど会話した事がない人たちしかいない。 男ばかりの中に自分ひとりと言うのは、居心地が悪い。 親密と言えるほど仲の良い友人達の傍なんて贅沢は言わないけれど、せめて同性がいてくれたら居心地の悪さなんて感じないのに。 そんなコトを考えながら、喉が渇いていたはタンブラーにウーロン茶を瓶から注ぎ、それで喉を潤した。 同じテーブルについている人はみんな自分たちの会話に夢中で、が座った事にすら気がついていない。 ……不二くんの隣なのは嬉しいけど、同窓会って感じが全然しないわ。 「…ちゃんと食べてる?」 「えっ?」 声がした方――左側へ視線を向けると、首を傾けている不二と目があった。 目をぱちくりさせると、彼のしなやかな指がの左手首にかけられた。太さを確かめるかのようにそっと握られる。 「細い…。ちゃんと食べなきゃダメだよ」 至近距離で切れ長の瞳に心配そうに顔を覗きこまれて、の心臓が跳ねる。 「ね?」 急な出来事に思考回路が追いついていないは、コクコクと頷くのが精一杯だった。 そんなを気に止めていないのか、気づいていて流しているのか、不二は涼しい顔での左手を離した。 そして、の前に置いてある皿を取って、蒸し魚やサラダ、オレンジやキウイなどのフルーツを盛り付けて、の前に置いた。 唖然としたが不二を見上げると、彼はにっこり微笑んで。 「美味しいよ」 「あ…ありがとうございます」 そう言うと不二はクスッと笑った。 「どうして敬語なの?」 「あ、えっと、なんとなく?」 「フフッ、君は変わらないね」 不二はさらりと前髪をかきあげて、楽しそうに微笑む。 時が数年前――高校三年の時に戻った気がした。 「どういうところが?」 「なんだと思う?」 さらりとかわして微笑む不二は、高校の頃と変わっていない。 「もう、不二くんも変わってないじゃない。人の事言えないわ」 はむっと顔をしかめた。 「すぐに人をからかうんだから」 久しぶりに逢って高鳴っていた胸は、微かな怒りに変わっていた。 「僕がからかうのは君だけだよ」 「…なおさら悪いわ」 初めて聞いた事実には半眼になった。 そんなに不二は口端を上げて不敵に笑った。 「僕が君をからかうのには理由があるんだよ」 「…どんな?」 理由があれば許すという訳ではないが、どんな理由があるのかは気になったので訊いた。 「好きなんだ」 「好きって何が?」 「この状況でそれを訊くの?全然全く気がついてなかった?いつも君だけを見ていたのに」 頬がとても熱くて、赤くなっているのが自分でもわかる。 けれど、驚きのあまり声が出ない。 「さっきの答えだけど、君が変わってないのは、僕が好きなところだよ」 不二はにっこり笑って、さらりと言った。 「僕と付き合ってくれるよね?」 時々少し強引な言い方も変わっていない。 ようやく心が少し落ち着いてきたは、小さく深呼吸した。 まだ頬が火照っていて熱くて、上手く言えそうにないけれど。 「…うん」 「それだけ?」 不満な顔で不二が首を傾ける。 いつの間にか周囲の視線や耳がこちらに向けられているのに、不二も気がついているはず。なのに言わせようとするなんて、やっぱりずるい――意地悪だ。 「あ、あとで…」 「それで僕が納得すると思ってる?」 思っていません、とは胸中で呟いて逃げるのを諦めた。 「…不二くんが…好き、です」 それだけ言うのが精一杯で、は俯いた。 ものすごく恥ずかしくて、ここから去りたい気持ちでいっぱいだ。 そんな彼女の心情を不二はわかっているだろうに、彼は追い討ちをかけた。 「僕と付き合ってくれる?」 はい、と返事をするだけで済まないのを、は悟った。 「…不二くん、つ、つき…やっぱり無理!」 「仕方ないな。なら、あとでちゃんと聞かせて」 …いいね、。 耳元で甘く囁かれて、は真っ赤な顔でコクコクと頷いたのだった。 END BACK |