2月29日。
四年に一度だけの特別な日。
それが僕の誕生日。
今日で僕は18歳になった。
ねえ、君は覚えているかな?
僕との約束を・・・。
四年前に交わした約束。
僕は忘れたコトはない。
Promise
夕方になって、不二家のインターフォンが鳴った。
リビングのソファに座ってテニス雑誌を読んでいた周助は、その音に顔を上げた。
「あら?裕太かしら?部活があるって言っていたけれど、案外早かったのね」
その音に気付いたのは周助だけではなく、キッチンで料理をしていた由美子もであった。母の淑子は足りないものの買い出しで出掛けている。
ケーキを飾り付けている手を休めて、由美子が玄関へ向かおうとした。
「あ、姉さん。いいよ、僕がでる。裕太じゃなくて、
だと思うから」
「そう?じゃあ、お願いね」
そう言って由美子はキッチンに戻った。
周助は玄関の扉に付いている覗き穴から外を見た。
扉の外にいたのは、周助の予想通り彼の恋人だった。
「
」
「あ、周くん。ごめんなさい。遅くなっちゃって」
「クスッ。心配しなくても大丈夫だよ」
「そう?ちょっと支度に手間取っちゃって」
そう言って
は恥ずかしそうに笑った。
彼女は薄いピンクのワンピースを着て、カシミアの白いショールを羽織っていた。
胸元と耳元では二年前に周助が
の誕生日に贈ったクリスタルのペンダントとイヤリングが揺れていた。そして彼女の左手の薬指には一年前に彼が彼女の誕生日に贈ったクリスタルの付いたシルバーの指輪が光っていた。本当なら彼女の誕生石であるダイヤモンドを贈りたかったのだが、そのように高価なものを贈れる訳がなく、諦めてかわりに外国では4月の誕生石とされているクリスタルを贈ったのであった。
そして唇にはピンクのルージュが引かれていた。
いつも下ろしている黒くて長いサラサラストレートの髪は、ゆるくウェーブがかかっていた。
自分の誕生日を祝ってくれるために、彼女がおしゃれをしてきてくれた。
そう思うと、周助は自然に笑みが溢れた。
いつもの笑顔ではなく、
だけに見せる笑顔で周助は幸せそうに笑う。
「僕のためにおしゃれしてきてくれたんだね。
ありがとう。すごく嬉しいよv」
の頬が恥ずかしさに赤く染まった。
付き合って数年たつのに初々しい彼女がどうしようもなく愛しくて、周助はクスッと笑った。
「
、あがって」
「あ…。お邪魔します」
「うわぁ〜。すご〜い」
ダイニングテーブルの上に並べられた料理を見て、
は感嘆の声を上げた。
テーブルには海老と白インゲンのサラダ、湯気を立てるスープ、クロワッサン・ロールパンなど焼き立てのパン類、白身魚のパイ包みなど食べ切れそうもない程たくさんの料理がのっている。
当然デザートには由美子特製のラズベリーパイという豪華なものだ。
周助も驚きに開眼するほどである。
「作り過ぎじゃないの?母さん、姉さん」
「そうかしら?そんなことはないと思うけれど…。ねぇ、由美子?」
「そうね。裕太も来るし、五人分としては丁度良いでしょ?」
そこへタイミング良く、話題に上がった周助の弟の裕太が帰ってきた。
「ただいま」
「お帰り、裕太。久しぶりだね」
「何言ってんだ。オレの誕生日にわざわざルドルフまで来たくせに」
「そうだっけ?」
「そうだよ。…ったく兄貴は」
「はいはい。ストップ、ストップ」
止めなければいつまでも続いていそうな会話を遮ったのは、由美子の声であった。
「早く座って。料理が冷めちゃうでしょ」
全員が席について、周助の誕生日パーティが始まった。
「「おめでとう。周助」」
「兄貴、おめでとう」
「周くん、お誕生日おめでとう」
「ありがとう、みんな」
誕生日には欠かせない祝いの言葉をそれぞれ周助に贈った。
おいしい料理を食べながらの食卓はとても賑やかで、時間は瞬く間に過ぎていった。
デザートのラズベリーパイを食べ終わった直後、由美子が隣の席に座る弟に耳打ちした。
「周助」
「なに?姉さん」
「ここは私とお母さんと裕太で片付けるから、
ちゃんと部屋に行きなさい」
「え?」
「彼女に言うことがあるのでしょう?」
そう切り出した由美子に驚いて、周助は目を見開いた。
けれども蒼い瞳が開いたのは一瞬の事で、すぐさまいつもの穏やかな顔へ戻った。
「フフッ。姉さんに隠し事はできないね」
「上手く隠していたつもりでしょうけど、お母さんたちは誤魔化せても私には無理よ」
そう言って由美子は艶やかに微笑んだ。
「
。ちょっと一緒に来てくれる?」
周助は裕太と話をしている
に声をかけた。
何故かいつもと雰囲気の異なる周助を不思議に思いながらも、
は頷いた。
周助の部屋に来た二人は、どちらともなく寄り添いあって座った。
それは二人にとってごく自然のことだった。
が鞄の中から片手に乗る小さな包みを取り出して周助に差し出す。
「お誕生日おめでとう。周くん」
「ありがとう、
。…開けてみていい?」
「うん。…気に入ってくれるといいんだけど」
「・・・・・シルバークロスのペンダント」
「ホントはね、テニス用品をプレゼントしたかったの。
でも、どういうのが使いやすいか分からなくて…」
「それでペンダント?」
「うん。一目見て周くんに似合いそうって思って」
「ありがとう。大切にするよ」
「ホント?」
「当たり前でしょ。一生大事にするよ。君と一緒に」
「私と一緒に?」
不思議そうに首をかしげる
にクスッと笑って、周助は細い身体を抱き寄せた。
「四年前の約束…覚えてる?」
「約束?……あっ、そうよ。私まだ答えてもらってない」
「フフッ。知りたい?」
「うん!」
そう答えた
に、周助は笑顔を消して真剣な顔つきになった。
「
。僕と結婚してくれる?
休日だけじゃなくて、毎日を君と過ごしたいんだ」
はそのセリフに一瞬止まった。
そして言われた意味を理解すると、顔を赤らめた。
「しゅ、周くんが四年前に言おうとしたのって…」
「うん。プロポーズだよ。でも男は18歳にならないと結婚できないからね」
周助はそう言って
の顔を覗き込み、もう一度訊く。
「返事、まだもらってないよ?」
「そんなの決まってるじゃない」
「ずっと周くんの傍にいさせて」
「
、愛してる。ずっと一緒にいよう」
ふたつの影はひとつになって、しばらくの間離れることはなかった。
END
や〜〜っと念願の四年後のドリームが書けました。
構想を練って練って書いた割には平凡ですが(苦笑)
この続きはあるのかないのか微妙です。
一応考えてあるのですが、こっちには置けない話なんで(笑)
貴方は周助くんのプロポーズを受けますか?
私は絶対に受けます(笑)だって断れませんよね?
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