叶うなら、永遠を




 土曜日の午後、学校帰りに不二に誘われて、は彼の家に遊びに来ていた。
 窓から室内へ柔らかな春の陽射しが差し込んでいる。
 開けた窓からは時折緑の薫りを乗せた風が入ってきて心地よい。
 ベージュの丸いローテーブルの上には、ブルーマウンテンを注いだコーヒーカップがふたつ。のリクエストに応えて、不二が淹れたものだ。淹れたてのそれからは、湯気が立っている。
 二人は斜向かいに絨毯の上に座り、たわいない、けれど楽しく話をしていた。

「え?願いごと?」
 不意に振られた言葉には首を傾げた。
 きょとんとした顔で瞳を瞬く仕草が可愛くて、不二は微笑みを深める。
「そ。ひとつだけ叶うなら」
「うーん……」
 唐突で、更にはたわいのない質問なのに、真剣な瞳で首を傾げる。
 どんな話でもちゃんと聞いてくれる素直さは、彼女の美徳だと思う。それにつけこんだと言われても仕方ないが、純粋に訊きたいのも事実だ。

 仮定の話なのに真剣になる君が可愛くて愛しい。

 という不二の視線にが気づくはずもなく、黒い瞳は右斜め上に向けられている。不二から視線を逸らしているのではなく、目を開けて考え事をする時の彼女のくせだ。
 斜め上――何を見るでもなく考えるのに向けられていた視線が、滑るように不二へ向けられる。
「あのね」
「うん?」
 続きを待つ不二に、ははにかんだ笑みを浮かべて言う。
「叶うなら、永遠、かな」
「永遠?」
 問うように首を傾げると、小さく首肯して。
「ずーっと周助くんの隣にいたいなー、なんて」
 えへへ、と照れくささを誤魔化すように、自分の髪を指に絡めてもてあそぶ。
 不二は色素の薄い瞳を細めて微笑んで、華奢な腕を引いて抱き寄せた。
の隣にいるよ。ずっと」
 叶うなら、永遠を――。
 君のお願いを叶えられるのが僕だけなら、叶えてあげる。
 誰でもない、君のお願いなら、ね。
 耳元で甘く囁くように告げると、白い頬が瞬く間に赤く染まる。
 不二はクスッと小さく笑って、彼女の黒い前髪を右手で梳いて、おでこに羽が触れるようなキスをした。 




END

初出・WEB拍手(2011.05.13)/再録
甘やかな3つの願い「3. 叶うなら、永遠を」
Fortune Fate様(http://fofa.topaz.ne.jp/)

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