砂糖菓子よりふわふわ甘い




 12月最初の水曜日。
 放課後の部活が少し早く終わって時間があったから、帰りに図書館に寄った。
 帰りはほぼ毎日幼馴染で恋人のと帰っているんだけど、今日彼女は用事があるらしく、久しぶりに一人だった。
 久しぶりにミステリー小説を読みたいと思って、推理小説を集めた棚へ向かった。
 乾が柳に勧められて読んでなかなか面白いと言ってた本を探してみると、棚から三段目の中程にそれを見つけた。目当ての本を取り、ふと思いついて料理やお菓子の本があるコーナーへ行った。僕は簡単な料理しかできないし、お菓子を作ったことはないのだけれど、が時々借りていると言っていたから、覗いてみようと思った。
 棚二つ分、ノートサイズから大型本までいろんな大きさの本が並んでいる。その中に棚からはみ出ている本を見つけた。タイトルは【りんごの本】という、赤い表紙の本だった。
 本を取り出して表紙を開く。目次を見ると、林檎のお菓子の本だった。
「……言ったら作ってくれるかな?」
 はお菓子を作って時々差し入れしてくれる。姉さんがお菓子をよく作る人だから、は気を遣っているのか、頻繁には作らない。
 けど頼んだら、砂糖菓子よりふわふわ甘い、可愛い笑顔で頷いてくれるんじゃないかと思う。
 言ってみようと決めて、二冊の本を借りて図書館を出た。



「ただいま」
 玄関を開けると、見慣れない女性の靴が並んでいた。
 もしかして思ったのと同時に「お帰りなさい、周ちゃん」とが出迎えてくれた。
、来てたんだ」
「うん。周ちゃんに渡したいものがあって」
 は緩く首を傾げて嬉しそうに笑う。彼女のこういう笑顔はふわふわしていて、すごく可愛い。
 脱いだ靴を脇に揃えて家に上がる。
「渡したいもの?」
「夕べやっとできたの」
 できたってことは、何か作ったのだろうか。
 リビングにあると言うから、を連れてリビングへ行った。
「お帰りなさい」
「ただいま。 とお茶飲んでたんだ?」
 リビングのソファに座る姉さんの前、テーブルの上にニ客のティーカップがあった。
「ええ。ちゃんたら置いて帰るなんて言うんだもの。せっかく来たのだし、周助が帰るまで待ってたらって誘ったのよ」
「そうなんだ。ありがとう、姉さん」
「どういたしまして」
「周ちゃん」
 に視線を向けると、茶色い紙包みを抱えるように両手で持っていた。
 さっき言っていた、渡したいものというのがこれなんだろう。
「はい、これ」
 受け取った包みは大きさの割りに軽かった。
「気に入ってくれたらいいな」
 そう言って、は少し照れたように笑う。
 僕が嬉しいと思うものが包まれているなら、ここで開けないほうがいいかもしれない。家族の前でを抱きしめたりキスしたりはできないから。
、部屋に行こう」
 の返事を待たず、手を引いて二階の僕の部屋へ。
 カーペットの上に座って、包みを開いた。
 中には白い毛糸で編まれたものが入っていた。広げると、それはローネックのセーターだった。裾に毛糸の小さいボンボンがふたつついている。
が編んだの?」
「うん。これから寒くなるし、周ちゃんいつも優しいから、そのお礼なの」
「お礼なんて気にしなくていいのに。でも、嬉しいよ。ありがとう」
 よかった、とが嬉しそうに笑う。
「周ちゃん白いセーター似合いそうだなって思って。クリームオレンジのストールみたいなの周ちゃん持ってるでしょ?それに合わせられるかなって」
 そこまで考えてくれたのか。
 僕のことを想いながら編んでくれたのかなと思うと、頬が緩む。
 の気持ちがすごく嬉しい。
「大切に着るよ」
 頷いて、はちょっと首を傾げた。
「…あのね」
「ん?」
「周ちゃんが着たところ見たいな」
「クスッ、いいよ」
 今度のデートに着ようと思ったけど、今でも全然構わない。
 立ち上がってコートと学ランの上着を脱ぎ、貰ったばかりのセーターに袖を通した。すっきりしたシルエットで、丈は尻の中程までと少し長めのデザインだった。
「どう?」
 僕はいいと思うけど、の言葉が聞きたい。
「うん、周ちゃんカッコイイ」
 セーターの感想…じゃなさそうだね。
 けどまあ、いいってことかな。
「温かくて着心地いいよ」
 そう言うと、は頬をほんのり染めて嬉しそうに笑う。
は砂糖菓子よりふわふわ甘いよね」
「え?」
「優しくて可愛いなってこと」
 身をかがめての前髪を梳いて額にキスをすると、白い頬が瞬く間に甘く染まった。
 クスッ、可愛いなあ。
 あ、そうだ。作ってもらうお願いしないとな。
 砂糖菓子よりふわふわ甘くて可愛い笑顔を見せてくれるかな、と期待してお願いを口に乗せる。
「ねえ、に作って欲しいものがあるんだけど――」




END

完全版Season2 10巻 書き下ろしの周助くんが素敵だったのでドリームにしてみました。
イラストそのもののドリームはクリスマスドリームで、と思っています。

君をたとえる3題「2. 砂糖菓子よりふわふわ甘い」
Fortune Fate様(http://fofa.topaz.ne.jp/)

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