Kiss×Kiss

 

 

 帰りのホームルームが終了すると、僕はすぐに帰る準備を始めた。
 つい先日テニス部を引退したばかりで、放課後の部活がなく早く帰ることに僕はいまだに慣れない。
 それほどテニスに夢中になっていたんだな、って今更に実感させられる。

 でも今日はそれに大いに感謝したい気分だった。


 10月31日。
 この国ではあまり馴染みがないけど、今日はハロウィンで、僕の恋人がパンプキンパイを作ってくれるらしい。彼女にとっては久し振りの休日であるにも関わらず、そういう可愛いコトをしてくれる彼女が愛しくて仕方がない。

 一昨日の電話で彼女が言っていたのを思い出して、自然に僕の顔に笑みが浮かぶ。


「不二ぃ。にゃんかあったの?すっごく嬉しそうだね」

「あ、英二。今日はね、 とデートなんだよ」

「へえ〜。やっぱりそっか〜」

 そう言ってニコニコ笑う英二に、何事かと僕は首を捻った。

「やっぱりって、どういうコトさ」

「お前ってさ、いつも笑ってるだろ。
 でもね、 さんの話をする時とか顔つきが違うんだ。すっごく優しい顔になる」

 以前から自覚はしていたけど、それに気付く人はほとんどいないだろうって思ってた。
 僕の本気が分かる人は少ないから。

「するどいね、英二」

「まぁね〜」

 英二は得意げに胸を逸らせた。
 それが可笑しくて、僕はクスクス笑った。

 ふと教室の時計を見ると、短針が4時を指していた。
 これ以上学校にいると、 との待ち合わせに遅れてしまう。

「じゃあね、英二。急ぐから」

「おう。また明日な〜」

 遠くに英二の声を聞きながら、僕は走って の住むアパートに急いだ。


 

 

 

 

 久しぶりに逢った僕たちは、それだけで嬉しくて、たわいのない話に花を咲かせていた。

 すると突然 が。

「いっけない!」

 そう言ってソファから立ち上がった。
  が僕を見た。

「周助、何がいい?」

 そう言えば、今日は彼女の手作りのパンプキンパイをごちそうになりにきたんだっけ。
  と逢えたコトが嬉しくて、すっかり忘れていた。
 それを彼女も思い出したらしい。


「そうだな。 がこの前言っていたのがいいな」

「ル・コルドンブルーの?」

「うん、クラシックブレンドってやつ」

「分かった。すぐに用意するから、ちょっと待ってて」


 

 数分後、彼女はティーポットと2つのティーカップ、そしてお手製のパンプキンパイをトレイにのせて、リビングへ戻ってきた。

「おいしくできたと思うんだけど・・・」

 そう言って は僕にパイを差し出した。
 生地の香ばしい香りと、生クリームのほのかな甘さが嗅覚を刺激する。
 フォークで一口大に切って、口へ運んだ。

「どうかな?」

  が不安そうに僕の顔を覗き込んだ。
 彼女は料理もお菓子作りも上手なのに、いつも僕の反応が気になるらしい。
 それがなんだかとても愛しくて。

「すごくおいしいよ。…ほら、ね?」

 彼女の顔に唇を近付けて、薔薇色の唇に軽くキスをした。
 すると彼女もほんのりと笑って。

「ホント。甘い、ね」

「フフッ。…パイも甘さ控えめでおいしいけど、一番甘くておいしいのは、 とのキスかな」

 僕がクスッと笑って言うと、 は頬を紅潮させて、それでもにっこり笑ってくれた。

「ねえ、もう一回してもイイ?」

「パイは食べてくれないの?」

「全部頂くよ。もちろん紅茶もね。でも、その前にもう一回、ね」


 彼女の耳元で囁くと、 はゆっくり瞳を閉じた。

 僕はさっきより少しだけ長くて深いキスをした。

 

 


 


END

 


 

+++++++++++++++
2003.10.31
Congratuate 20000 over.
Thank You.



サイト20000HIT記念にフリー配布したドリームを再録。現在はフリーではありません。
なぜかキスシーンが書きたくなって書いたもの(笑)
周助くん視点にすると甘々になってしまうのはどうしてなんだろう?

 


HOME