穏やかな午後




 日曜日の昼下がり、は不二家に向かった。
 テニス部の練習は日曜日もあることが多いが、今日は休みだと周助から聞いていた。
 午前中は用があってでかけていたが午後は何もないので、周助に逢いに行こうと思ったのだった。
 家にいるかどうかはわからないのだが、連絡しないで行ったらびっくりするかなと思って、事前連絡なしの訪問だ。
「周ちゃんいるといいなあ」
 呟いて、は玄関のインターフォンを押した。
「はい、どちら様?」
「あ、お姉ちゃん。です」
「あら。ちょっと待っててね」
 ほどなくして玄関のドアが開き、インターフォンに出た由美子が姿を見せた。
「いらっしゃい、ちゃん」
「こんにちは、由美子お姉ちゃん。あの、周ちゃんいる?」
 首を傾げるに、由美子はにっこり微笑んだ。
「ええ、いるわよ」
 由美子に上がるように言われ、は不二家にお邪魔した。
「周助は自分の部屋にいるわ。でも…」
 頬に手をあてて僅かに困ったような笑みをみせる由美子には瞳を瞬いた。
「でも?」
「昼寝してるのよ。ちゃんなら部屋に入っても何も言わないでしょうけど」
「ええっと、入っても大丈夫なら行きたい」
 寝顔でもなんでも、周助の顔が見られるならはそれで充分だ。彼がいなくて顔を見られないよりずっといい。
「それならゆっくりしていって。つまらなくなったら下に来てくれれば、お茶を淹れるわ」
「うん」
 は由美子に礼を言って、静かに階段を上がった。  
 周助の部屋のドアを音がしないように、そぉっと細心の注意を払って慎重に開ける。
 ドアを半分ほど開いたところで、部屋の中を窺った。
 周ちゃん?
 声にならないほどのとても小さな声で彼の名を呼んで、ベッドの傍へ抜き足差し足でそっと近づいた。
 優しく微笑んでいるから、一瞬起きているのかと思った。
 けれど、色素の薄い瞳は閉じられたまま、開く気配はない。
 幸せそうな笑顔で寝ている周助に、は頬を緩めた。
「…周ちゃんは寝顔もカッコイイなあ」
 ベッドの傍にぺたりと座り込み、周助の寝顔を見ながらは小さな声で呟いた。
 こうして周助の寝顔をじっくり見るのは初めてだ。
 私だけの特権かな、と嬉しくて笑みが零れる。
 まさしく周助を独り占め、だ。
「……周ちゃんの髪って綺麗だよね。瞳も」
 話をしている時は穏やかで、テニスをしている時は鋭い。その時々で異なる色素の薄い瞳は、いつでも心を奪われる。
 そして思うのだ。
「大好き」
 は笑顔で言って、布団にぽすんと横にした頭を乗せた。
 柔らかな布団の感触が気持ちよくて、は黒い瞳を閉じた。
 は周助といられる幸せに浸っているうち、いつのまにか眠ってしまっていた。



 ふと目を覚ました周助は、布団が重いことを訝しげに思いながら視線を動かした。
 現状を把握し、色素の薄い瞳を驚きに瞠る。

 彼女を起こさないように気をつけて起き上がる。
「来てたなら起こしてくれてよかったのに」
 寝息を立てているにクスッと愛しげに微笑んで、彼女の頬にそっと触れた。
「ねえ、。早く目を覚まして」
 君の瞳に僕を映して欲しいな、との耳元で甘く囁く。
「……ん…」
 まるで返事のような寝息に周助は色素の薄い瞳を細めた。
「起きないとキスしちゃうよ、
 周助はフフッと笑って、の黒髪を指先に軽く絡ませ、それにキスをした。




END



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