子供のころの屈託ない夢を語って




 黒いヴェールに覆われた空に、冬の星が輝いている。
 街は白や金色、青などのイルミネーションに彩られている。
 クリスマスムード満点の街中は、家族や友達、恋人たちが行き交い賑やかだ。


 天気予報はホワイトクリスマスになるかもしれないと言っていたが、予報ははずれてしまったようだ。
 雪が降ったらロマンチックでいいなあと思っていたので少し残念だ。
 家を出たとき夜空を見上げたはそう思っていた。
 けれど、迎えに来てくれた――といっても家は隣なのだが――周助の顔を見たらどちらでもいいかと思った。
 雪が降っても、降らなくても、周助が隣にいてくれたらはそれだけで嬉しい。



「そういえばさ」
 映画館へ行くのに駅前の広場を通りかかった時、 広場の端に飾られた大きなクリスマスツリーが瞳に映り、周助はふと思い出した。
「僕らが幼稚園児だったころ、、星が欲しいって泣き出したことあったよね」
「えっ、周ちゃん覚えてるの!?」
 は恥ずかしさに白い頬をかすかに赤く染めた。
「もちろん。大きくなったらに星をあげるんだって思っていたから」
 周助は子供のころの屈託ない夢を語って愉しそうに笑う。
 黒い瞳を瞬いて、ははにかんだ笑みを浮かべた。
 くすぐったくて、けれど周助がそんなふうに思っていてくれたことが嬉しくて。
「もみの木のてっぺんの星はみんなのものだからって由美子お姉ちゃんに言われたんだよね」
 は周助を見上げて、当時を懐かしく思い出しながら言った。
 周助はクスッと笑って頷く。
「うん。けど裕太は納得しなくて大変だったよね」
 その言葉には黒い瞳を瞬いた。
「そうだった?」
 自分が言ったことは覚えているが、裕太まで言っていたというのは今初めて知った。
「姉さんがなんとか宥めたんだよ」
「そうだったの。 あ、そういえば周ちゃんは星が欲しいって言わなかったね」
 十年近く前の事なのに、今頃になって気がついた。
 隣の県にある有名なクリスマスツリーを不二家と家の家族全員で見に行って、子供達だけで別行動していた時だ。当時由美子は中学生だったし、言うとしたらと裕太と周助だけだっただろう。裕太が言ったことは覚えていなかったけれど、あの時から――それよりずっと前からは周助が好きだったから、確かに言っていなかったと記憶している。
に笑って欲しかったからね」
「え?」
意味がわからず、は首を傾げた。
そんな彼女に周助は色素の薄い瞳を細めて微笑む。
の笑顔がいつでも一番の贈り物だから」
「…っ」
 の顔が赤く染まる。
 答えになってないことなど不意打ちで言われたら気がつかない。
 周助の視線から逃れるようには俯いた。
 嬉しいけれど、まともに周助の顔を見られない。
「え、映画始まっちゃう」
 誤魔化すが可愛らしくて、周助は頬を緩める。
「そうだね、行こうか」
 周助がの右手と繋いでいる左手に僅かに力を入れると、同じように握りかえされた。



その夜。は彼女だけの星を周助からプレゼントされた。




END

ふたりの聖夜に5題 2.子供のころの屈託ない夢を語って [Fortune Fate様]

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