love for you




 空は薄暗く、天気予報の午後から雪が降りそうだという予報が当たりそうな空模様をしている。
 空気は肌を刺すような冷たさで、吐息は真っ白だ。
 先日降った雪が溶けずに道の端にわずかに残っているところもある。
 そんな寒さが居座っている2月半ばの夕方。周助とは今日も二人はいつものごとく、仲良く手をつないで歩いていた。
 今日はバレンタインで、周助の部屋で一緒に過ごす約束をしている。本来なら土曜日も学校があるのだが、学校の都合で臨時休校となった。だから今日は時間を気にせずゆっくりできる。
「じゃ、またあとで」
 家の門前で手を離しながら周助が言った。は小さく頷く。
「うん。一時間半くらいしたら行くから待っててね」
 周助はクスッと笑って頷いた。
「大丈夫、ちゃんと待ってるよ」



 周助と別れてから、一時間半と少し。
 家のキッチンにいた。部屋にはチョコレートの甘い香りがほんのり漂っている。
「そろそろいいかな?」
 自分の部屋からラッピング用品を取ってキッチンへ戻ってきたは、ひとりごちてケーキクーラーの上で粗熱をとっているチョコレート菓子をひとつ摘まんで口に入れた。
 味は大丈夫だ。
 まだ少し温かいが、このくらい冷めていれば壊れないだろう。
 両手を広げたほどの大きさの取っ手つきの籐籠に銀色のセロファンを敷き、その上に青空色のペーパーナプキンを広げて敷く。
 そして、その上に四角いチョコレート菓子をそっと入れていく。
 仕上げに取っ手の根元に銀色の細いリボンをつけて、周助に渡すチョコレートは完成だ。
「できた!」
 は出来上がったそれに埃除けにレースペーパーをかけ、急いで家を出た。



 不二家のインターフォンを押すとすぐに応答があった。
「はい」
 周助の声だ。の顔に笑みが広がる。
「周ちゃん、です」
「待ってて、今開けるよ」少しして玄関ドアが開き、周助が顔を見せた。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
 は玄関を上がって、家の中が静かなことに気がついた。
「周ちゃん、おばさまとお姉ちゃんは?」
「ああ、さっき二人で買い物に出かけたよ。が泊まっていくだろうからって二人とも張り切ってた」
 周助はフフッと笑った。
、先に部屋に行ってて。お茶を淹れてくるから」
「手伝うよ」
「ありがとう。でもすぐできるから大丈夫だよ」
「わかった」
 は階段を上がって二階の周助の部屋へ入った。
「周ちゃんの部屋っていつも片付いててきれいだなあ」
 整頓されている室内を見て呟いて、部屋の真ん中にあるミニテーブルの上に手に持っている菓子を置いてから、その前に正座した。
 数分して言葉どおりすぐに、周助は部屋へ入ってきた。
「おまたせ」
 周助はミニテーブルの上にマグカップをのせた木のトレーを置いた。
「ありがとう。 あ、コーヒーだ」
「うん」
 周助はに応じながら備え付けのクローゼットへ向かい、扉を開けて何かを取り出すと戻ってきた。
 は周助が座るのを待って、籠に入れたチョコレート菓子を差し出そうとした。が、周助に先を越された。
「好きだよ、。はい、これ。僕から君に」
 両手に抱えるほどの大きさの包みに驚きながら、はピンク色の包装紙に雪色のリボンでラッピングされたものを受け取った。
「わあ、ありがとう。何かな? あっ、」
 包みを解こうとし、周助にチョコレートを渡していないことに気がついた。
「周ちゃん。大好きな周ちゃんに私からはこれなの」
 籠を周助に差し出す。
「ありがとう。今年も手作りだね」
 嬉しそうに笑う周助にも笑顔になって頷く。
「食べてみて?」
「開けてみて?」
 を真似て言う周助には楽しそうに笑って頷く。
 雪色のリボンを解き、包装紙を開く。
「わあ、可愛い!」
 出てきたものには黒い瞳を輝かせた。
 包まれていたのは、白地に苺模様の何か。透明な袋に入っているそれをいそいそ取り出す。
 ふわりと肌触りのよいそれを広げると、バスタオルよりもずっと大きい、大判のブランケットだった。
 はブランケットを押して、嬉しそうな笑顔で肌触りの良さを何度も確かめた。
「あったかそう」
 周助に向かって言って、はブランケットを羽織ってみた。大きいので座っているはすっぽりブランケットの中におさまった。
「可愛くて、ふわふわしててあったかい。ありがとう、周ちゃん」
 にこにこ嬉しそうに笑うに周助は色素の薄い瞳を細めて微笑んだ。
「気に入ってもらえてよかった」
「今日から愛用するー」
 えへへ、とは笑った。
が作ってくれたショートブレットも美味しいよ」
「ほんと?よかった」
「はい、あーんして」
 は周助に言われるまま、条件反射で口を開けた。口の中にお菓子がひとつ入れられる。
 もぐもぐとそれを食べてからは口を開いた。
「餌付けされてるみたい」
「あはは、そうくるか。僕としては恋人同士のふれあいなんだけどな。 でも、らしくて可愛い」
 は頬に優しく触れる指と、近づいてくる周助に、ドキドキしながら瞳を閉じた。




END



BACK