Just 早すぎても、遅すぎてもダメ。 なぜなら今年は一瞬しかないから。 その一瞬のために、メール本文を打ち込んであとは送信するだけにした携帯を手に、親指は送信ボタンに置いて、電波時計をじっと見つめる。 そんなの瞳はさながら獲物を狙う鷹のようである。 電波時計の長針と短針が真上でピタリと重なった瞬間、ボタンを押してメールを送信した。 メールの送信履歴は2月29日0時0分――実際は3月1日0時0分だが、うるう年でない年は都合よく解釈するのである――となっている。 「直接言いたいけど、時間が時間だもんね」 一日早いけれど、昨日言えばよかっただろうかと今頃になって後悔する。 はあ、と溜息を落とした時、携帯が鳴った。 ディスプレイには”メール着信”と”不二周助”と表示されている。 急いで開いたメールには【いま電話してもいいかな?】と書かれていた。 黒い瞳が驚きから喜びに変わるまで、瞬きひとつぶん程の時間だった。 「私から電話しても平気、よね?」 呟いて、は思い切って電話をかけた。 電話はすぐに繋がり、穏やかで優しい声が応答する。 「周助くんお誕生日おめでとう」 「ありがとう」 不二の微笑みが浮かぶような嬉しそうな声。 は言えて嬉しいと胸の内で呟いて、頬を緩めた。 「もしかして伝わったのかな?」 クスクスと楽しそうに不二が笑う声がする。「には声で言ってもらいたいなって思ってたこと」 「…でも、二月が過ぎちゃった」 やっぱり一日早くても二月のうちにお祝いをすべきだったと、は肩を落とした。 不二は電話を待っていてくれた。 けれど自分はメール送信を選んだ。 「ごめんね」 「僕はが祝ってくれて嬉しいよ。だから泣かないで。傍にいないから涙を拭ってあげられない」 優しくて甘い言葉にの白い頬がほんのり赤く染まる。 「…うん。ありがとう」 「クスッ、それは僕のせりふだよ、。 ……今すぐに逢いたくなってきちゃったな」 「それは…だけど、もう夜中だし…」 自分も逢いたいけれど、さすがに夜中の外出は危ないだろう。それに人気のない夜道はちょっと怖い。 「ねえ、。今日は一緒に学校行こうよ。朝迎えに行くから」 「う、うん!」 「じゃあ、またあとで。おやすみ、」 「おやすみなさい」 は挨拶をし、不二が電話を切るのを待つ。が、数秒しても通話が切れない。 「あの、周助くん?」 「うん?」 反応があるということは、切っていないのは明らかだ。 そういえば、前にもこういうことがあったな、と思い出した。 あの時はどうしたんだっけ? 記憶を手繰るを不二の声が呼び戻す。 「、5つ心の中で数えたら切って。僕もそうする」 「あ、うん、わかった」 心の中で5をが数えたと同時。 「大好きだよ」 不二の甘い声が鼓膜を揺らした。 END BACK |