二月末日。 放課後の部活を終え、周助はどこにも寄り道をしないで、まっすぐに帰宅した。 今日は自宅でバースデイパーティーがあるからだ。家族ではなく、自分のための。 大切な家族たち、そしてなにより、愛しい恋人が祝ってくれるのは嬉しい。 頬が自然と緩み、歩く速度がわずかに早くなる。 単純だな、と僅かな苦笑が秀麗な顔に浮かぶ。が、それも刹那で、嬉しい笑みへと戻った。 「ただいま」 玄関のドアを開けて家に入りながら言った周助の色素の薄い瞳に、土間に脱がれた白いスニーカーとベージュ色のローファーが映った。 それらの靴が誰の物なのかすぐに理解すると同時に、足音が耳に届く。その足音に重なるように、「おかえり~」と姉の声がリビングのほうから聞こえた。 「周ちゃん、おかえりなさい」 「おかえり、兄貴」 笑みを浮かべて出迎えてくれたと、その後ろに弟の裕太がいる。 「裕太が出迎えてくれるなんて久しぶりだね」 クスッと零れた笑みに裕太はふいっとそっぽを向いた。 「べっ、別にいいだろ…」 ぶっきらぼうに言う裕太に周助は楽しそうな笑みを口に刻む。 「ありがとう」 驚いたようにこちらを見る裕太に周助はクスッと小さく笑って、二人に背を向けて上がり段へ座った。 「あっ、裕くん!」 靴を脱いでいると、遠ざかる足音が聞こえた。 「ほんと照れ屋だな」 クスクス笑いながらごちて、周助は二階の自室へ行く。制服からシャツとセーターとジーンズに着替え、階段を下りてリビングへ向かった。 リビングのドアを開けると、温かな暖房の空気に交じり、甘い香りとスパイシーな香りが漂っていた。 周助が入ってきたのに気が付いた裕太が視線を向けてくる。 「ごちそうだね」 裕太に言いながら、周助は後ろ手にドアを閉めた。 「母さんと姉貴とちゃんがはりきってるからな」 その言葉に応えるかのようにタイミングよく、湯気を立てるチキンを乗せた皿を手にしたがキッチンからやってきた。 「もうできるから、座ってっておばさんとお姉ちゃんが」 周助に向けて言うに頷いて、周助は弟の隣の椅子に座った。テーブルにチキンを置いたは、周助の左隣の席に座った。 母と姉が最後の料理をテーブルに並べ、三人の向かいの食卓につく。 ノンアルコールシャンパンが注がれたグラスを手に4人が周助の誕生日を祝う言葉をそれぞれかけて、パーティーが始まった。 「おばさんのケイジャンチキンとお姉ちゃんのケーキ、美味しかったなあ」 わきあいあいとしたパーティーが終わり、周助と彼の部屋を訪れたは、カーペットの上で頬を緩ませた。 「裕くんとも久々にたくさん話せて楽しかったし」 ね?と問うような瞳を向けられ、周助はクスッと笑って頷く。 「そうだね。 裕太がちょくちょく家に帰ってくるようになって嬉しいよ」 ふふっ、と嬉しそうに笑うに微笑んで、周助は彼女の額に触れるだけのキスを落とす。 不意打ちのキスに頬を赤く染めたは隣にいる周助から視線を反らし、話題を変えるように傍らに置いた紙袋から大きな包みを取り出した。 「周ちゃん、お誕生日おめでとう!」 「ありがとう、。 開けてみていい?」 周助の好きなほわほわとした可愛い笑顔では頷いた。 帰宅してリビングへ行った時、置いてあった大きな紙袋を見た。それが自分へのプレゼントだとは思っていなかったけれど、一緒に部屋に来る時にがその紙袋を持ち、ちらりと見えたリボンに自分への贈り物だろうかと思った。 その時驚いた大きさのプレゼントのラッピングをほどいていく。 包装紙を開けながら隣のにちらりと視線を向けると、彼女は緊張した面持ちをしていた。 がくれるものなら、僕は何でも嬉しいんだけどな。 胸中で呟いて、中身を隠している包装紙を開けた。 そこから出てきたのは、クッションカバーとクッションだった。 クッションカバーは水玉模様かと思ったが、よく見ると林檎柄が混じっている。水色と赤とそれぞれひとつづつのクッションカバーと、中に入れるクッション。ちなみにクッションは圧縮してある。 周助はを見て、にっこり微笑んだ。 「これいいね、柄が気に入ったよ」 「よかった」 周助が気に入ってくれて笑顔になったは、直後の言葉に瞳を瞠った。 「さっそく使わせてもらうね。は赤かな?苺と同じ色だし」 「えっ?私が赤って」 驚くに周助は楽しそうな笑みを浮かべて言った。 「僕の部屋で一緒に使えるように水色と赤にしたんじゃないの?」 「えっ、そんなつもりは全然」 「なんだ、残念。 でも、赤は君のね」 決まったとばかりに、周助は前言を実行に移した。つまり、クッションを取り出して、クッションカバーの中に入れて、クッションとして使えるようにした。 「はい、」 周助は使えるようにした赤いカバーをかけたクッションをに差し出す。困ったように笑いながら、はクッションを受け取った。 「思っていたより大きい」 はクッションを両腕で抱えるようにして、感想をもらした。 「可愛い」 いつのまにか至近距離にいた周助に甘く囁かれて、心臓が跳ね上がった。 「しゅ、周――」 黙って、というように周助はの唇に人差し指と中指で触れた。の心臓がますます跳ね上がる。 「目を閉じて」 色素の薄い瞳を柔らかく細めて、熱のこもった甘い声で囁かれる。 ほら、閉じて。 と周助の瞳が語っている。 腰に腕が回されて、逃げ場はなかった。 周ちゃんずるい…! 胸の内で呟いて、けれど周助にキスをされるのは嫌ではないから、は真っ赤な顔で瞳を閉じた。 「プレゼントありがとう」 END BACK |