不意に強い風が吹き、隣を歩く彼女の腰に届きそうな長い黒髪をさらった。
「やだ、ぐしゃぐしゃになっちゃう」
 風の冷たさよりも髪を気にするのが女の子らしくて、可愛さに笑みが零れた。
 の手が伸びるより先に黒髪に手を伸ばし、風に乱された黒髪を整える。
の髪はサラサラだよね。それにいい香りがする」
 指でくしけずるようにするりと梳いて髪に軽くキスをすると、白い頬が真っ赤に染まった。
「しゅ、周助くん…」
 可愛い彼女にクスッと笑みがこぼれた。
 もっと触れていたいと思いながらも髪から手を離し、まったく別の話題を口にする。
「ねえ、クリスマスに行きたいところはある?」
「えっ、クリスマス?」
 まだ赤い頬のまま、黒い瞳を大きく瞠って驚く。
「一緒にいていいの?」
 バラ色の唇で紡がれた言葉に今度は僕が驚いた。
 とは付き合い始めてまだ4ヶ月で、初めて迎えるクリスマスだし、僕はデートをするつもりでいた。
 秋にはアンダーセブンティーンの合宿があり、その直後オーストラリアに遠征をしていた。だからと逢うこともままらなくて、帰国してからはできるかぎりと過ごす時間を作るようにしている。
「ほんとにいいの?」
 黒い瞳を不安げに揺らすに頷く。
「うん、僕はと過ごしたい。だからデートしてくれる?」
 は頷いて、嬉しいと照れたような顔で笑った。
「じゃあ10時に迎えに行くよ」
「えっ」
「嫌かな?」
「嫌じゃない。けど、いいの?周助くん大変じゃない?」
 僕のことを気遣ってくれるのは嬉しいけど、もっと甘えて欲しいと思うのは僕のわがままなのかな?
にだからそうしたいんだ」
「あの…」
「ん?」
「ま、待ってるね?」
「うん、待っていて」
 約束のしるしに恋人の柔らかな頬にキスをした。




 君とクリスマスツリー




 今年のクリスマスは日曜日なだけあって街中はどこも人が多い。
 雑踏の中、僕とは手をつないで、駅から数分歩いたところにある巨大なショッピングモールに向かっていた。
「わたし大きなクリスマスツリーを見るの初めて」
「そうなんだ? フフッ、君の初めてに一緒にいられて嬉しいな」
 は頬を赤く染めて俯いてしまったけど、「わたしも」と囁く声が届いて、嬉しさに繋いでいる手に少し力をこめた。
 ショッピングモールの中央、上階まで吹き抜けているロビーに、クリスマスツリーは飾られていた。
 天使、スノーマン、サンタやトナカイ、リース、ステッキ、プレゼントなどのオーナメントが飾られ、色鮮やかな電飾が明滅している。
「わあ、大きい」
 ツリーを見上げてが感嘆の声を上げる。
 とても楽しそうな横顔に、誘ってよかったと頬が緩む。
「こんなに大きいと飾りつけるの大変そう。ね?」
 ツリーを見ていた黒い瞳が僕に向けられる。
 彼女の弾けた笑顔が眩しくて、目を細めた。
「ああ、飾りつけ甲斐がありそうだね」
「家で飾るツリーは小さいものね」
「ツリーを出しているの?」
 は首を横に振った。
「5年生くらいまでは出してもらって飾ってたけど、この数年は全然。周助くんのところは?」
「そうだな…中学に上がった年までは出していたかな」
「大きくなると飾らなくなってくるのかな…」
 寂しさが混じったような声色で呟いて、はまたツリーを見上げた。
「ねえ、
 名前を呼ぶと、は視線を僕に向けて緩く首を傾げた。綺麗な黒髪が彼女の仕草に合わせてさらりと流れる。
「来年一緒にクリスマスツリーを飾りつけてみない?きっと楽しいと思うんだ」
 僕の提案には驚いたように瞳を瞠り、ついで嬉しそうに微笑んだ。
「うん。楽しみにしてるね」
 は恥ずかしそうに右手の小指を差し出した。
 驚いたのは瞬きひとつぶん。華奢な小指に自分の小指をしっかり絡めて約束を交わした。



 そして夜の帳が落ちてあたりが暗くなった頃。
 の黒髪に似合うと思って買った白いリボンの髪飾りを、クリスマスプレゼントに贈った。




 END


 TITLE by.Heaven's様(http://lazbiz.style.coocan.jp/hs/)
 クリスマスで10のお題 Ver3より抜粋
 元のお題:キミとクリスマスツリー


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