Stay With You
今日は12月25日、クリスマス。
私は大好きな彼とデートの約束をしていた。
誘ってくれたのは彼からだった。
『
。クリスマスを一緒に過ごそう』
10月中頃にデートした時にそう言われて、私は驚いた。
だってクリスマスは12月でしょ?二ヶ月も先の事を今から約束するつもりなの、ってそう思った。
でも、誘ってくれたのがとても嬉しかったから、私は迷いなく頷いた。
その日からずっと楽しみにしていた。
私はショルダーバッグとクリスマスプレゼントを入れた紙袋を持って、職場を後にした。
腕時計の針は17時を過ぎたばかりだったけれど、私は周助と待ち合わせをするのによく行く喫茶店へ向かった。
アンティーク調の扉を開けると、クリスマスソングが聞こえてきた。
賑やかなものではなくて、ピアノ伴奏だけの静かな曲が、この店の雰囲気と見事に調和していた。
クリスマスだけれど店内はさほど混んではいなかった。
周助と待ち合わせたのは18時30分。
周助と早く逢いたくて来たけれど、時間はまだたくさんある。
それなら街中のキレイなイルミネーションを見て彼を待っていよう。
そう考えて、私は窓際の席に向かった。
頬杖をついて、木々に飾られたイルミネーションをぼんやりと見ていた。
通りを行き交う人たちの顔はとても幸せそうで、一人きりの私は段々淋しくなってきた。
(早く逢いたいよ…。周助)
「待たせてごめん」
少し低めの優しい声と一緒に、背中に少しひんやりとしたものを感じた。
驚いて思わず小さな悲鳴を上げてしまったけれど、こんな事をするのは周助しかいない。
そして振り向くと、そこにいたのはやはり周助だった。
彼は時々こうやって人前でくっついてくる。ホントはイヤじゃないけど、恥ずかしくて私はつい反論してしまう。
「も〜。耳元で囁かないでって何度言ったら分か・・・・・」
最後まで言わないうちに、冷たい唇によって言葉が飲み込まれた。
唇は軽く触れただけだったけれど、恥ずかしくて私は周助を軽く睨んだ。でも、それは周助の微笑でかわされてしまった。
悔しいけど、周助には適わない。彼には私の行動なんてお見通しみたい。
「それにしても、ずいぶん早いのね。約束した時間まであと一時間はあるわよ?」
疑問を思ったまま口に出すと、周助はクスクス笑った。
「そういう
こそ。こんなに早く来て、僕を待ってるつもりだったの?」
「うん。もし周助が早く来ていたら待たせちゃうでしょ?それに少しでも早く逢いたかったんだもの」
彼とは毎日電話で話しているけど、デートするのは実に2週間振りだった。だから早く顔が見たくて、時間よりも前にここへ来ていた。
素直にそう言ったのに、周助は少し困ったような顔をして。
「あのね、
。僕も一秒でも早く君に逢えるのは嬉しいよ。
でも一人で待っていたら危ないでしょ」
「え?どうして?」
彼の言うことは時々よく分からない。
「
は可愛いんだから、ヘンな男に目をつけられたら困るでしょ」
周助はそう言ったけど、私はそこまで可愛くないと思う。顔だって十人並みだし、スタイルだっていい訳じゃなく、ホントに普通。彼より5つ年上なのに、周助と同い年のコより童顔だし。キレイとか可愛いなんて単語は当てはまらない。
「周助が言うほどナンパされてないよ?」
それに、彼氏もちの女性にアプローチしてくるような自信家は、世の中そういないと思う。
私の左手の薬指には、周助がプレゼントしてくれたプラチナリングもついているし。
それなのに周助は…。
「確かに人の恋人に手を出す男はいないと思うけど、ね。
でもね、僕の心配も分かって欲しいんだけど?」
顔はにっこり笑っているのに、蒼い瞳は笑っていなかった。
心配性の恋人に心の中で嘆息をついて、私は彼と約束を交わす。
「…分かった。気をつけるから」
そう答えると、周助は満足気に微笑んだ。
(周助って独占欲が強いのよね。…嬉しいけど)
人に束縛されるのはイヤって思っていたはずなのに、周助が相手だと許せてしまうのがすごく不思議。
きっとそれだけ周助を愛してるってコトなのかな?
二人でいる時間はあっという間に過ぎていった。
外から微かに鐘の音がする。駅前広場の大時計が19時を告げる音。
それが鳴り終わると、突然周助が席を立った。
「時間になったから、そろそろ行こうか」
「周助。時間ってなに?」
そう訊ねると、周助は楽しそうに微笑んで。
「フフッ。着くまで秘密だよ」
周助が連れて来てくれたのは、隣にあるホテルだった。
ロビーに入ると、目の前には大きなツリーが飾られていた。
赤いリボンや雪の結晶の飾りで飾り付けられたツリーはとてもキレイで、その周りには多くの人が集まっていた。
そこを通り過ぎて、私は周助に導かれるままエレベーターホールへ向かった。
エレベーターに乗ると、周助は15階を押した。
目的の階で降りて、少し歩くとレストランが見えた。
”L’espoir”って言うんだよ、って周助が教えてくれた。
店内へ足を踏み入れると、ボーイさんがやってきた。
「いらっしゃいませ」
「予約している不二ですが」
「不二様。……二名様ですね。お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
そうして案内されたのは、窓際の席だった。
その席から見える夜景はとてもキレイで、思わず溜息が漏れる。
それと同時にとても嬉しい気持ちになった。
きっと周助のことだから、かなり前から予約をしておいたのだろう。
だからあんなに早い時期に、クリスマスは一緒に過ごそうって言ってくれたんだ。
「ありがとう、周助」
そう言って笑うと、周助も笑い返してくれた。その笑顔は見なれているはずなのに、なぜかドキドキして落ち着かなかった。
だから彼に気付かれないように、視線を窓の外に向けた。
高層ビルや東京タワー、レインボーブリッジの光に街中のイルミネーションが加わった夜景は、まるで星空のよう。
「すごい。星を散りばめたみたいね」
「うん。想像以上にキレイだ」
「ホントにキレイね。ずっと見ていても飽きないかも…」
「フフッ。そんなに喜んでくれると嬉しいよ。
でも、そう夜景ばかり見ていられるとちょっと、ね」
「ちょっと、なに?」
「夜景に嫉妬しちゃうよ」
サラッとすごいコトを周助は言った。
恥ずかしいけど、嬉しい気持ちが勝って、私はいつもなら言わないだろうことを口にしていた。
「ばか。…でも、そんな所が大好き」
「クスッ。僕も
を愛してるよ」
二人で乾杯して、おししいフランス料理を味わった。
そのあと、周助の部屋でお互いにプレゼントを交換したあとは、二人きりの甘い夜を過ごした。
END
聖なる夜は 大切な貴方と・・・
せっかくのクリスマスなので、周助くんの年齢を上げました。
高校生設定は好きですが、やはりムリがありますし。
楽しいクリスマスをお送りくださいね。
期間限定(2003年12/24〜25日)公開ドリーム。再録・一部修正、加筆
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