「急に静かになったね」

 愛車のハンドルを握り運転を続けながら、周助は後部座席に声をかけた。
 その言葉に は座席に設置してあるチャイルドシートでスヤスヤ寝息をたてる息子の颯(そう)に視線を向けて、微笑みを零した。

「朝早かったから、眠くなったみたいね。
 私がお弁当を作っている時に起きてきちゃうんだもの」

「フフッ。よっぽど楽しみだったんだね」

 

 

His hope

 

 

「ね、周助」

「なに?」

「あとどのくらいで着くの?」

「あと10分もすれば着くよ。そろそろ颯を起こしたほうがいいかな」

「そうね」

 周助の言葉に頷いて、 は寝息を立てている息子の肩を優しく叩く。

「颯、起きなさい。もうすぐ着くわよ」

 そう耳元で言うと、小さなうめき声が上がり、小さな手が眠たそうに両目をこする。

「……ママ?」

「くすっ。起きた?もうすぐ着くわよ」

 そう息子に言うと、颯は満面の笑みを浮かべて。

「わぁい。しゃぼてんしゃぼてん」

 そう言って全身で嬉しさを現す息子を は複雑な表情で見つめた。
 颯の笑顔は可愛いのだけれど、だんだん周助そっくりになってくる。しかも最近分かったことだが、颯は夫と好みが同じだということが判明してきた。

「なんでこんなにそっくりなのかしら」

 思わず漏れた呟きに、運転席から楽しそうな声が返る。

「僕と君の息子だからでしょ」

「そうだけど…。颯は絶対に周助似だと思うわ」

「そう?寝つきがいいトコとか素直なトコは そっくりだよ」

 そう言って、周助はバックミラー越しに微笑んだ。


 


 ほどなくして、直進していた道を左折し坂道を上がると、目的地が見えた。
 車が40台ほど止められそうな駐車場に車を止めて、三人は車を降りると公園へ向かった。

 訪れた場所は公園といっても温室のようなつくりになっている所であった。
 入口で入場券を購入して園内へ入ると、中にはたくさんの見たこともないほど大きなサボテンや、キレイな花をつけたサボテンがいくつも点在していた。

「わぁ〜。しゃぼてんがいっぱいだあ」

 颯が瞳を輝かせてそう言った。

「あっ!おはなさんだぁ」

 そう言ったかと思うと、颯は目の前にあるサボテンに向かって手を伸ばそうとした。
 だが、その手はサボテンのトゲに触れる寸での所で、大きな手によって止められた。

「颯。危ないから触ったらダメだよ」

 そう周助が注意すると、颯は後ろを振り返って首を傾げた。

「めっ、なの?」

「うん。トゲが刺さったら痛いんだよ」

 僕の場合は手じゃなくて目だったけどね・・・。まあ、刺さったんじゃなくて、目に入っちゃったんだけどさ。
  がつきっきりで看病してくれたから、治るのも早かったよね。

 過去の失態を思い出し、苦笑いを浮かべて周助が言った。
 すると。

「いたいのや〜」

 そう言うと、先程までの笑顔は消えて、泣き出しそうな顔をした。
 その表情に再び苦笑して、周助は困ったように を見た。
  は周助に目で合図して、颯に歩み寄ると、頭をそっと撫でた。

「サボテンさんに触らなければ痛くないから。大丈夫よ。ね?」

 優しく声をかけると、颯は母親譲りの黒い瞳を母に向けた。

「いたくないの?」

「いたくないわよ」

  が笑顔でそう答えると、颯もにっこり笑った。


 そして、親子みんなで手を繋いで、園内を歩き出した。

 

 生態ごとにいくつかのフロアに別れた園内を見て回り、周助は愛する妻と息子の写真を取ったりした。
 そしてだいだい一回りした頃、太陽は空の真上にまで昇ってきていた。
 周助が腕時計に目を遣ると、時刻は正午を少し回っていた。

、颯。お昼にしようか」

 赤い花をつけた小さなサボテンを、しゃがんで嬉しそうに見ている二人に周助が声をかけた。

「そうね。颯もお腹すいたでしょ?」

「うん!」

「クスッ。決まりだね。屋外の庭園にベンチがあったから、そこで食べよう」

 


 サボテンがある温室から出て少し歩くと、青々と茂った芝生が広がっていた。
 こじんまりとした庭園だが、植木はキレイに整えられ、花を付けていた。そして庭園の中央には小さな噴水があった。

「パパ。ボクあそこがいい〜」

 そう言って、颯は周助と繋いでいる手をぐいっと引っ張った。
 小さな手は噴水近くのベンチを差していた。

 

 バスケットに詰めてきたサンドイッチやフライドチキン、サラダが半分程なくなった頃、噴水近くへ小さな子供が二人走ってきた。
 おにごっこでもしているのか、二人ともはしゃいだ声を上げている。

「おにいちゃん、まってよ〜」

「やだよ。まっていたら につかまるだろー」

 そんな声が聞こえてきた。

 すると周助がニコニコしながら。

「ねえ、

「なに?」

「もう一人作ろうか」

 何の前触れもなく言った周助のセリフに、 は飲んでいた麦茶を喉に詰まらせた。

「……っ…っほ…な、なに突然」

「やっぱり子供は多い方が賑やかでいいと思うんだよね。少なくても二人は欲しいな、僕。
 颯も弟か妹、欲しいよね?」

「?」

 周助の言っていることは、まだ4歳になって数カ月しかたっていない颯には理解できないようで、きょとんとしている。

「あんな風に遊べるよ?」

 そう言って、周助は庭園内を駆け回っている兄妹を指差した。
 すると、意味が通じたのか、小さな頭が縦に振られた。

「颯はどっちがいい?」

「かわいいの!」

「可愛い?じゃあ妹だね」

「ちょ、ちょっと!二人で勝手に決めないでよ」

「え?もう一人も息子がいいの?僕は 似の娘がいいんだけど。
 颯も妹が欲しいんだよね?」

「うん!」

「ほら。颯もこう言ってることだし。
 早速今日の夜から頑張らなきゃね。ね、

 不敵な笑みを浮かべて言った周助を は睨み付けた。
 だが一一一。

「ママ。ボクおにいちゃんになるの〜」

 大切な息子に嬉しそうに瞳を輝かせて言われて、がっくりさせるようなことを言えるはずもなく。
  は顔に引きつった笑みを浮かべた。

「クスッ。夜が楽しみだね。 v」


 

 

 

END

実は未来ドリーム3作目だったりします。
某サイト様の企画に1つ、来月の周助くんのバースデー用に1つ
仕上げてあったり(笑)
息子まで味方にする黒い周助くん、大好きです。

2004年 寒中見舞いフリー夢/再録

 

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