タカノツメバレンタイン
学校が終わると、
は急いで家に帰った。 キッチンのテーブルの上に、チョコレート作りにかかせないお菓子道具を一通りのせる。 ビターチョコレート 「・・・っと、これでよし。じゃあ作ろうかな」 昨夜作っておいた
特製のガナッシュを冷凍庫から取り出して、湯せんにかけて溶かしたビターチョコレートでそれをコーティングする。 ブラウンのリボンを箱に十字に掛けて、ちょう結びをする。
その日の夜、チョコを渡した時の彼の顔、食べてくれた時のことを考えてドキドキしながら、 は眠りについた。
翌朝、目覚まし時計が鳴るよりも早く、
は目が覚めた。 部屋の壁掛け時計を見ると、時刻は7時過ぎだった。 「ちょっと早いかな…?」 いつも家を出る時間は7時30分だったので、この時間に登校するのは早すぎる。かと言って、特別することがある訳でもなかった。 けれど、今日はなぜか無性に不二に会いたくてしかたなかった。 受験勉強から解放された不二は、最近テニス部の朝練に顔を出していた。 はそれを知っていたので、一秒でも早く彼に会ってチョコを渡したくて、早めに家を出ることにした。
毎日通っている道なのに、不思議と心が弾む。 校門をくぐると、
はテニスコートへ向かった。 「周くん!」 「 。おはよう」「おはよ、周くん。菊丸君も、おはよう」 「 ちゃん、おっはよ〜」「今日はいつもより早いんだね」 「うん。だって今日はバレンタインだから」そう言って、 はカバンの中からチョコを入れた箱を取り出して、不二に差し出した。 「はい。周くんv」「ありがとう、 」 不二は心底嬉しそうな笑顔で、チョコを受け取った。 すると、それを横で見ていた菊丸が、「ねぇ、
ちゃん」と
に詰め寄った。 「俺にはにゃいの?」 そう訊かれて、彼女は申し訳なさそうに。「ごめんね。周くん以外の人には作ってないの」 それを聞いて、クラスメイトはがっくり肩を落とした。「残念にゃ〜。 ちゃんの作るお菓子オイシイのににゃ〜」 「ホントにごめんね」「ねぇ、英二」 「にゃに?」「いつまでココにいるつもりなの?」 普段の笑顔の二割増の笑顔で、不二が訊いた。口元は笑みをたたえているが、色素の薄い瞳は全く笑っていない。 彼の顔を言葉で現すとするなら、「邪魔だよ。英二」といったところか。 「お、俺、先に教室に行ってるにゃ」 そう言って、レギュラージャージから制服に着替えることも忘れて、菊丸は校舎の方へ脱兎のごとく駆けていった。
邪魔者を体よく追い払った不二は、満足そうに微笑んで、彼女に声をかける。 「 」「あ、なぁに?」 「開けてみていい?」「うん」 彼女がそう答えると、不二は嬉しそうにラッピングを解き始めた。「・・・・・トリュフだね」 「うん。周くん好みになるようにしてみたの」の言っているコトがよく分からず、不二は首を傾げて。 「僕好み?」「ふふっ」 嬉しそうに笑う は、自分で答える気はないように見えた。 不二はココアパウダーのついたトリュフをひとつ摘んで、口に入れた。 「分かってくれた?」 「うん、確かに僕好みだね。それに、すごくオイシイよ」「ホント?」 「うん、オイシイ。 の愛情がいっぱいだからね」 そう言って、不二はにっこり笑った。 「クスッ。ありがとう、 」 もう一度お礼を言って、不二は細い身体を抱き締めると、
の唇にキスを落とした。
END 作中で
さんが作ったトリュフのレシピは実在します。 |