タカノツメバレンタイン

 

 

 学校が終わると、 は急いで家に帰った。

 大好きな彼に愛情を込めたチョコレートを作るために一一一。


 キッチンのテーブルの上に、チョコレート作りにかかせないお菓子道具を一通りのせる。
 それから、数日前から用意しておいた材料を並べる。


 ビターチョコレート

 ココアパウダー

 ココナッツ

 コーンフレークス


「・・・っと、これでよし。じゃあ作ろうかな」


 昨夜作っておいた 特製のガナッシュを冷凍庫から取り出して、湯せんにかけて溶かしたビターチョコレートでそれをコーティングする。
 チョコレートをかけた順に、手早くココアパウダーをまぶす。
 同じようにして、ココナッツパウダーをまぶしたものと、コーンフレークスをまぶしたものを数個作った。
 そして、3種類のトリュフを紙製の黒いトリュフカップに入れ、丸い箱に2ケづつ詰める。

「あとはリボンをかけて・・・」

 ブラウンのリボンを箱に十字に掛けて、ちょう結びをする。


 

 その日の夜、チョコを渡した時の彼の顔、食べてくれた時のことを考えてドキドキしながら、 は眠りについた。


 

 翌朝、目覚まし時計が鳴るよりも早く、 は目が覚めた。
 時計を見ると、いつもの起床時間より30分も早かった。
 もう一度眠りについても仕方がないので、彼女はベッドから身体を起こした。

 顔を洗って、朝食を取り、学校へ行くための身支度を整える。

 部屋の壁掛け時計を見ると、時刻は7時過ぎだった。

「ちょっと早いかな…?」

 いつも家を出る時間は7時30分だったので、この時間に登校するのは早すぎる。
 かと言って、特別することがある訳でもなかった。
 けれど、今日はなぜか無性に不二に会いたくてしかたなかった。
 受験勉強から解放された不二は、最近テニス部の朝練に顔を出していた。
  はそれを知っていたので、一秒でも早く彼に会ってチョコを渡したくて、早めに家を出ることにした。

 

 

 毎日通っている道なのに、不思議と心が弾む。
 フワフワとした嬉しい気持ちになる。
 それはきっと、今日がトクベツな日だからかもしれない。


 校門をくぐると、 はテニスコートへ向かった。
 目的の場所に着いた時、二つの人影がフェンスに囲まれたテニスコートから出てくるのが見えた。
 そのうちの一人は、彼女の恋人だった。

  は顔に満面の笑みを浮かべて、不二の傍へ走り寄った。

「周くん!」

。おはよう」

「おはよ、周くん。菊丸君も、おはよう」

ちゃん、おっはよ〜」

「今日はいつもより早いんだね」

「うん。だって今日はバレンタインだから」

 そう言って、 はカバンの中からチョコを入れた箱を取り出して、不二に差し出した。

「はい。周くんv」

「ありがとう、

 不二は心底嬉しそうな笑顔で、チョコを受け取った。

 すると、それを横で見ていた菊丸が、「ねぇ、 ちゃん」と に詰め寄った。

「俺にはにゃいの?」

 そう訊かれて、彼女は申し訳なさそうに。

「ごめんね。周くん以外の人には作ってないの」

 それを聞いて、クラスメイトはがっくり肩を落とした。

「残念にゃ〜。 ちゃんの作るお菓子オイシイのににゃ〜」

「ホントにごめんね」

「ねぇ、英二」

「にゃに?」

「いつまでココにいるつもりなの?」

 普段の笑顔の二割増の笑顔で、不二が訊いた。
 口元は笑みをたたえているが、色素の薄い瞳は全く笑っていない。
 彼の顔を言葉で現すとするなら、「邪魔だよ。英二」といったところか。

「お、俺、先に教室に行ってるにゃ」

 そう言って、レギュラージャージから制服に着替えることも忘れて、菊丸は校舎の方へ脱兎のごとく駆けていった。

 

 

 邪魔者を体よく追い払った不二は、満足そうに微笑んで、彼女に声をかける。


「あ、なぁに?」

「開けてみていい?」

「うん」

 彼女がそう答えると、不二は嬉しそうにラッピングを解き始めた。

「・・・・・トリュフだね」

「うん。周くん好みになるようにしてみたの」

  の言っているコトがよく分からず、不二は首を傾げて。

「僕好み?」

「ふふっ」

 嬉しそうに笑う は、自分で答える気はないように見えた。

 不二はココアパウダーのついたトリュフをひとつ摘んで、口に入れた。
 口の中にチョコの味と、ほのかな洋酒の味、そして本来なら決してしないだろう味が広がった。

「これって…」

「分かってくれた?」

「うん、確かに僕好みだね。それに、すごくオイシイよ」

「ホント?」

「うん、オイシイ。 の愛情がいっぱいだからね」

 そう言って、不二はにっこり笑った。
 それに も頬を微かに赤く染めて微笑んだ。

「嬉しい。喜んでくれてよかった」

「クスッ。ありがとう、

 もう一度お礼を言って、不二は細い身体を抱き締めると、 の唇にキスを落とした。

 蕩けるように甘いキスは、微かに唐辛子の味がした。

 

 

 

 

END

作中で さんが作ったトリュフのレシピは実在します。
というか、綾瀬のオリジナルレシピですが(笑)
色々研究して作り上げました。
バレンタインドリームなので、甘く仕上げました。
そしてやっぱり黒不二です(笑)


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