その写真に映っていたのは、周くんだった。
 芝さんは記者だから、周くんの写真を持っていても不思議じゃない。

 でも私が見ている写真は、レギュラージャージやテニスウェアを着ている周くんじゃなかった。
 どう見ても、彼が着ているのは私服にしか見えない。

 カメラに向かって優雅に笑っている周くん。

 横向きで、何かを鋭く捕えているような周くん。

 優し気に白馬を撫でている周くん。

 白馬に跨がって、笑っている周くん。


「なに…これ…?」


 そう言うのが精一杯だった。


「先週の日曜日に、撮らせてもらったのよ。
 素敵でしょ、不二くん。本物の王子様みたいよね」


 芝さんが頬を赤く染めて、うっとりしたようにそう言った。
 でも、私は彼女の態度より、言っていた内容の方が気になった。


 先週の日曜日?

 その日は部活だったはず。

 だって、周くんはそう言っていたもの。

 でも・・・

 それはウソだったの?

 なんで芝さんが周くんの写真を持ってるの?

 やだ。なんで?

 私は訳が分からなくなって、その場から駆け出した。


 私の知らない周くんの話をする芝さん。

 私にウソをついたかもしれない周くん。

 悲しくなって、涙が溢れてきた。

 でも人前で泣きわめく訳にはいかないから、私は涙を堪えて、やっとのことで校舎裏の林まで走った。

 

 

「・・・のばか。ど・・してウソつくの?
 しゅう・・く・・のウソつきっ・ばかぁ・・」

 私は樹の根元に座り込んで、嗚咽を上げていた。

 その直後、私は温かい何かに包まれた。

、ごめん」

 耳元で大好きな彼の声がして、私は身を震わせた。

「言い訳なんて聞きたくなっ…んんッ」

 私の言葉を遮るように、周くんにキスで唇を塞がれた。
 だんだん深く、激しくなるキスに、私は身体の力が抜けていった。

「お願いだから、僕を信じて。

 普段穏やかな瞳は真剣な眼差しだった。
 怖いくらいに真剣な表情の周くん。
 私だって周くんを信じたい。
 でも…だけど…。

「ちゃんと説明するから」

 私が何か言うより先に、彼がそう言った。

 そして真相を話してくれた。

 私が見た写真は、テニス雑誌の学校紹介のページで使う企画用のものだということ。
 周くんだけじゃなくて、他のレギュラーみんなの分があるということ。
 それから…。

を驚かせたかったから、黙っていたんだ。
 芝さんに頼んでリハで撮った分の写真を貰ったから、 にはそれをあげようと思ってたんだけど…先を越されるとはね。
 ごめんね、 。君を傷つけたね」

「私もごめんなさい」

 申し訳ない気持ちと情けない気持ちでいっぱいで、私は下を向いてしまった。

「いいんだよ」

 周くんはそう言いながら、私を抱き寄せた。

僕は だけの王子だよ。だから、君以外の人の所へは行かないよ

 耳元で甘く優しく囁かれた。

 

 

 

 

END

元ネタは『S H2』の特典ディスクです。
自分の知らない恋人の姿を他の人から告げられたら、
さんはどういう反応をするんだろうな…って。
すみません。見事に沈んでおります(汗)


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