日曜日、天気のよい昼下がりの午後。
 不二は自宅の自室で恋人と過ごしていた。
 テニス部の休みと恋人の仕事の休みが重なることは滅多になく、偶然に休みの重なった今日は、久しぶりに二人きりでゆっくり過ごせるはずだった。

 


 

「ねぇ、周助」

「なあに?」

「おば様と由美子さんはいないの?」

 家に上がってリビングに通された が、人の気配のない室内を見てそう訊いた。

「うん。出掛けてるんだ。二人でオペラを観に行くって言ってたから、戻るのは夜だと思うよ」

「そう」

「それがどうかしたの?」

「もうすぐお昼でしょ。だからね、どうしようかなって思って」

 そう言った に不二は嬉しそうに笑って。

の手料理が食べたいな」

「え?」

 不二のセリフに は目を見張った。

「なんで驚くの?」

「だって、おば様が準備とかなさっていったんじゃないの?」

「してないよ。 が来るからいらないよって断っておいたから」

「どうして?」

 不思議そうに首を傾げて訊ねてくる彼女に彼はにっこり笑って。

「久しぶりに の手料理が食べたかったからv」

 大好きな恋人に笑顔で言われて断ることができるはずもない。
 それに、 としても自分の料理を望まれるのがイヤな訳はない。むしろ、とても嬉しい。

「周助は何が食べたいの?」

「そうだね… の作るものは何でもオイシイから迷うな」

 かくして不二が望んだものは、彼の好物であるケイジャン料理の品々だった。
 お昼のメニューが決まったので二人で近所のスーパーに買い物に出掛け、食材を購入してきた。
 不二は少し手伝った程度で、あとは が全て作ってくれた。
 それを二人で楽しく食べた。

 

 そして、彼女が淹れてくれた紅茶を飲みながら、楽しい時間をゆっくり過ごせるはずだったのだが一一一。

 

  は不二の肩に寄り掛かって、微かな寝息を立てていた。
 不二は眠ってしまった彼女を起こさないように、動かずにいた。

 そうっと の顔を覗き見ると、その寝顔はとても幸せそうだった。
 思わずクスリ、と笑みがもれる。

(やっぱり寝顔も可愛いな…)

 そんなコトを思っていると、僅かに開けてある窓からそよ風が入り、 の長い黒髪を揺らした。

の髪、長くなったよね…)

 二人が付き合い始めた三年前、 の髪は肩より少し長い程度だった。それが今は腰まである。それが二人が共有してきた時間の長さだと思うと、嬉しいけれど、くすぐったいような気さえする。

 風に舞った髪が数本、彼女の顔にかかった。
 それをはらおうとして不二が長い指をそっと伸ばした時、彼女の瞳が開いた。

「ごめん。起こした?」

「…周助の髪、キレイ」

 目覚めた途端、 は細い指で彼の色素の薄い髪を触ってそう言った。
 そんな彼女に不二は苦笑して。

「どうしたの。いきなりだね」

 その言葉に はふふっと小さく笑って。

「太陽の光で輝いて見えたの。キレイだな〜って思って。
 それにサラサラしてて触り心地もいいわよね、周助の髪」

「そう?」

「うん。羨ましいな。私も周助みたいな髪がよかったな」

 そう言いながら、 は自分の髪を手に取ってジッと見ると、軽く溜息をついた。
 すると不二は彼女の黒髪をサラッとすくいあげた。

「僕は自分の髪より の髪の方が好きだよ。
 サラサラしてて触り心地はいいし、それに…」

 そう言いながら、黒い髪に顔を近付けて。

「すごくイイ香りがするしね」

 フフッと笑いながら甘く囁いた恋人に、 は嬉しさと恥ずかしさで頬を朱色に染めた。

 


 

 

 

END

『髪』というお題から連想したのは、周助さんの髪でした。
彼以外の人は全く思い浮かばないあたり、周助くんに毒されています(笑)
彼に「君の髪キレイだよ」って言って欲しくて書きました。
ラストの さんの髪の匂いを楽しむ周助くんが書けてとても満足です(笑)
二人きりのほのぼのとした時間は楽しんで頂けましたでしょうか?

桜野雪花菜様・主催『Syusuke Love Party2004』投稿/再録
コメントもそのまま掲載してみた(笑)

周助さんの髪に触ってみたいな〜。あ、でも・・・。
私的には触られたいな(笑)


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