ガラスの林檎 2
リビングの扉を開けると、息子の颯(そう)がいた。 「あ、パパ!」 まだパジャマ姿の息子の傍に歩み寄って、腰をかがめて視線を颯と同じ高さにする。「なにを見てたんだい?」 そう訊くと、先月の12月に4歳になったばかりの息子は、小さな手で棚の上に飾ってあるガラスの林檎を差した。「りんご〜。きらきらしてキレイなの〜」 ニコニコ笑いながらそう言った。その笑顔は日毎に僕に似てくると は言う。 棚は窓際近くにあるため、レースのカーテンから差し込んだ朝日がガラスの林檎に当って反射していた。 「ママから?」 「うん。とっても大切な僕の宝物なんだ」光の反射でキラキラ輝く からの贈り物に、そっと目を細めた。
今から五年前の2月29日、厳密に言えば五年前は閏年ではないから僕の本当の誕生日はなかったけれど、僕が22歳の誕生日を迎えた日に、
がバースデープレゼントにくれたものがガラスの林檎だった。
息子と二人で飽きることなくガラスの林檎を眺めていると、しばらくしてリビングの扉が小さな音を立てて開いた。 「おはよう。 」 「おはよ〜。ママ」 僕と颯がそろってそう言うと、
はにっこり笑って、僕らのいる所へやってきた。 そう言って、彼女は僕にキスをする。僕もお返しに彼女の桜色の唇にキスをした。僕からのキスを受け取ると、
は幸せそうに微笑んだ。 そう言って微笑んだ。 「「え?」」 何事かと、僕と は顔を見合わせた。そんな僕らの耳に届いたのは一一一。 「ボクもパパみたいにココにチュッがいい〜」 自分の唇を指差してそう言った息子に、僕は思わずクスッと笑ってしまった。愛息子のお願いを聞いてあげたいけど、僕もこれだけは絶対に譲れないんだ。 「ママは僕のものだから、颯にはあげられないんだ。ごめんね?」 僕譲りの色素の薄い茶色の髪を撫でながら言った。すると、呆れたような、でも照れを含んだような声が耳に届く。 「息子にヤキモチ妬かないでよ、周助」 目元を僅かに赤く染めて言った に顔を近付けて、柔らかい唇に軽くキスをした。「善処するよ」 ホントはそんなことできないっていうのが本音だけど。きっと は僕のそんなトコも分かっているだろうけど、苦笑しながらもそれを許してくれるだろう。 「もう、仕方のないパパね。ね、颯」 僕の予想に違わず
はそう言って、息子の頭を撫でた。 「うん」 そう返事を返すと、 はキッチンへと向かう。その背中に向かって。 「 。今日は目玉焼きが食べたいな」 僕がそう言うと、それにならって颯も。「ママ〜。ボクもパパとおんなじのがいい〜」 は朝御飯のリクエストをした僕らを振り返った。「了解v」 笑顔で承諾して、 はリビングを出ていった。「じゃあ、着替えようか。颯」 「うん!」小さな手を引いて、僕は寝室へ向かった。
颯の着替えを終えてキッチンへ向かった僕らを待っていたのは、おいしそうな朝御飯の匂いだった。 「もうすぐできるからね。座って待っていて」 そう言って、フライパンを片手に が振り返る。息子を席につかせ、僕は妻の所へ。 「手伝うよ、 」 「ありがと。じゃあ、もうすぐお湯が沸くから紅茶を淹れてくれる?」「うん」 リビングにある小さな食器棚から、 のお気に入りのティーカップと僕の分のティーカップ、そして颯のマグカップを取り出してトレイにのせた。キッチンに戻ろうとして歩き出し、一度振り返った。 棚の上では、僕の宝物がキラキラと輝いていた。
初めて未来ドリームを書いたのですが、すごく楽しかったですv 桜野雪花菜様・主催『Syusuke Love Party2004』投稿/修正/再録 |