花霞
来月になれば大学生活が始まり、僕の日常も忙しくなる。 でも今は春休みだから、学校に来ている生徒や先生は限られている。 こんなチャンスは逃せない。 僕は愛用のカメラを手にして家を出た。
校門をくぐって二週間振りに足を踏み入れた母校は、僕が通っていた頃となにも変わっていない。 「・・・・そろそろ、かな」 腕時計の針が正午を回ったのを確認して、僕は裏庭へ向かった。裏庭は桜の花が咲き乱れ、辺り一面を桜色に染めていた。 微かに風が吹くと、桜色の花びらがフワリと宙に舞う。 まるで花霞の中にいるようだ。 そして、その幻想的な風景の中に、僕は の姿を捕えた。 「フフッ。やっぱりいた」 この時間に
がココで昼食を食べるのは、いつものことだから。 初めてこの場所で彼女の姿を見かけた時、気になって訊いたことがある。 「 先生、職員室で食べないんだね」 「ええ。いいお天気なのに、室内にいるのはもったいないでしょう?」「クスッ。確かに、ね。 …あ、そうだ」 「?」「明日から僕も一緒に食べていいかな?」 そう訊いたら、 はとても驚いていた。
そんなコトを思い出しながら、僕は
へ近付いていく。 「 !」 僕は恋人の名前を呼んでいた。の視線が桜から僕に移って。 彼女は僕と目が合うと、顔に満面の笑みを浮かべた。 とても幸せそうに微笑む に、ドクンと鼓動が早まる。 ホワイトデーに逢ったばかりで、数日しか経っていないのに、彼女の笑顔がすごく眩しく感じる。 とても愛しくて、 から目が離せない。 「周助くん!」 彼女が僕の名前を呼んで、こっちへ駆けてくる。年上と思えないほど、その姿は可愛いくて。 「ホワイトデー以来ね。今日はどうしたの?」 「 に逢いたかったんだ。どうしようもなく、ね」の細い身体を抱きしめてそう言うと、彼女はフワリと微笑んで。 「私も周助くんに逢いたかったわ」 そう言った彼女を少し力をいれて抱きしめ直して、しっかりと腕の中に閉じ込める。 「え?何を?」 そう答えた彼女に僕は思わず笑みを零した。 ホワイトデーにも言ったのに、忘れちゃったの? 「キス二回だね」 彼女の耳元で囁いて、唇を重ねた。柔らかい唇に二回キスを落として、 を見つめた。 すると彼女は頬を僅かに桜色に染めて。 「こんなトコで…誰かに見られたら…」 「クスッ。校舎からは見えないよ」 本当なら
とのキスシーンを見せつけたいけどね。 でも、今日くらいは一一一。 「 、こっちに来て」 彼女の手を引いて、一番大きな桜の樹の下へ歩いていく。樹の幹に背中を預けて腰を下ろして、 を僕の前に座るように促す。 そして、後ろから彼女の細い身体を抱きしめた。 「桜…キレイね」 「うん、そうだね」「ね、周助」 「なぁに?」「桜の写真、撮らなくていいの?」 が地面に置いたカメラに視線を向けて、そう訊いた。「うん。あとでゆっくり撮るよ。それよりも・・・」 「それよりも?」細い身体を抱きしめている腕に少しだけ力を入れて。 「今は の笑顔を僕に独占させて」
の耳元で甘く囁いて、桜色の唇に深いキスを落とした。
END 周助くん視点にすると、砂を吐くほど甘々になるのよね(笑) |