you are my princess

 

 夏休みが始まって2週間が過ぎた、8月上旬。
 全国大会へ向けて、テニス部は毎日ハードな練習をしていた。
 今日の練習が終わり、太陽が照りつける暑い中を、不二はテニス部の仲間と帰宅していた。

「今日もハードだったっスね〜」

 桃城がぐったりした表情でそう言うと、隣に歩いている菊丸が同意するように頷いた。

「確かににや〜」

「もうオレ腹が減ってしかたないっスよ」

「お?なになに桃、今日はお前の奢り?」

 悪戯っぽい笑顔を浮かべて、菊丸が言うと、桃城を挟んで菊丸の反対側を歩いている越前が、ニヤッと不敵に笑った。

「いいっスね」

「だろ〜? ね、不二もそう思う・・・」

 そう言いながら、菊丸は三人の後ろを歩いている不二を振り返った。
 だが、不二には菊丸の声が届いていなかった。
 それもそのはずで、不二は恋人との会話に華を咲かせていた。
 今日は偶然にも、テニス部の練習と演劇部の練習が同じくらいに終わったので、不二が を誘って、一緒に帰ることになったのだった。
 もっとも、不二は と二人で帰るつもりだったのだが、校門を出た所で、菊丸、桃城、越前の三人に捕まり、こうして五人で帰ることになってしまったのだった。

不二曰く一一一

より大事なものはないよ』

 そう彼が公言してはばからない、不二の最愛の彼女、 である。

「ね、周くん。つばめと羆と鯨だったら、どれがいい?」

「そうだね・・・。鯨かな?  は?」

「私は・・・つばめかな」

 振り向いた菊丸に聞こえたのは、そんな二人の会話だった。

「・・・おーい。不二、聞こえてるんだろ?」

 小さな声で自分を呼ぶ声に、不二は に向けていた笑顔を菊丸に向けた。
 だが、その笑顔は、 を見つめている時とは全く違っていた。

「なにかな?英二」

 にっこりと笑顔でそう返した不二に、菊丸は背筋にイヤな汗が流れるのが分かった。

「えっと…不二も一緒に行くかな〜って思ってさ」

「なんで僕が?」

 不二がにこやかにそう返すと、菊丸は少し青くなった顔を、横に振った。

「い、行かないよな。うん」

「え?行かないんすか?じゃあ 先輩は?行くよね?」

 不二の声のないNOという答えを無視して、越前が にそう訊いた。

「えっ?私?」

「うん。俺と一緒にお茶に行かない?」

「行かない」

「なんでアンタが答えるんすか。不二先輩」

 不機嫌を露に越前がそう言うと、不二はクスッと笑って。

「ねえ、 は越前たちと一緒に行きたい?」

「周くんが一緒なら行くけど・・・。周くんは行きたくないんでしょ?それなら行かないわ」

  が笑顔でそう答えると、越前はつまらないという表情で。

「ちぇっ…」

 そう呟いた。

 そんなやりとりを見ていた桃城と菊丸は視線を交わして。

(あいかわらずラブラブっスね〜。越前もいいかげん諦めればいいのに)

(だよにゃ〜。不二は ちゃんが絡むと容赦ないからにや)

「二人とも何か言った?」

「「いいえ。なんにも」」

 するとそこへ、小さな子供の声が聞こえた。

「きゃ〜〜っ」

 高い悲鳴がしたと思った時、10メートルほど先の十字路の右側から、女の子の姿が見えた。

「そこどいて〜〜〜っ」

 そう叫びながら、必死に走ってくる少女を、五人は条件反射で避けた。
 だが、菊丸が手に持っていたテニスボールが彼が驚いた瞬間にアスファルトに転がり、女の子は運悪く、それを踏み付けてしまった。
 女の子の小さな身体が宙に投げ出された。
 刹那、 大きな手が伸ばされ、小さな身体はフワリと抱きとめられた。

「大丈夫?」

 そう言いながら、不二は女の子を立たせると、少女は茶色い瞳をキラキラ輝かせて。

「王子様だわ・・。私の王子様、見つけた」

「「えっ?」」

 不二と の声が重なった瞬間。
 女の子が現れた場所から、高校生の男二人が姿を見せた。

「見つけた!」

「逃がさないぜ」

 怒気の混じる声に我に返った女の子は、不二の背後にサッと身を隠した。

「わ、わたしが悪いんじゃないわ!偶然なの!」

 そう言って、女の子は男達に追われている理由を簡単に説明した。
 その間にも、二人組は近付いてくる。
 だが、その前に菊丸と桃城が立ちはだかった。

「相手は女の子だろ〜」

「そうそう。女の子に暴力ふっちゃあいけねえな。いけねえよ」

「うるせえ!ケガしたくなかったら、引っ込んでろ」

 すると菊丸が大きく息を吸った。

「みなさ〜〜ん。高校生が小学生に暴力振るってますよ〜〜」

 大きな声でそう言うと、道ばたで話してした主婦たちや、ゴミ収集をしている人たちの視線が、集まった。
 すると、悔しそうに舌打ちする音がして。

「クソッ!」

「覚えてろ!」

 捨て台詞を残して、男達は走り去った。

 

「もう大丈夫だぞ」

「安心してにゃ〜…って」

 振り向いた桃城と菊丸は、その場に硬直した。
 ちなみに越前は、開いた口が塞がらないといった表情で、その光景を唖然と見ていた。

「助けてくれてありがとう!私は伊集院クルミっていうの。あなたの名前は?」

「え?僕?」

「うん!教えて?」

 少女は不二の腕に自分の腕を絡めてそう訊ねた。
 その光景を は複雑な表情で見つめていた。

「周くんにくっつかないで」

 そう言いたいけど、相手は小さな女の子だ。それを言うのは、大人気ない気がして言えない。
 もっとも、そう が言えば、不二は心底喜ぶだろうが。

『クスッ。妬いてるの?可愛いな〜、

 とか。

『大丈夫。僕には だけだよvvv』

 とか。
 蜂蜜より甘く蕩けるセリフを言いそうである。

 

「ねえってば。名前教えて?」

「僕の名前を教えたら、腕を離してくれる?」

 自分の腕に絡み付いて無邪気に質問を続ける少女を一瞥して、不二が言った。
 彼はにっこりと微笑んでいるが、瞳は笑っていない。

「い・や。 あなたの名前、教えて?」

「仕方ないね。君が離れてくれないなら、離すまで教えない」

 不二は瞳を微かに細めて、笑みを深くして、そう言った。

「え〜〜っ」

 少女が不満そうにぷくっと頬を膨らませた。
 すると不二はクスッと笑った。

「離す気がないなら、君を力ずくで引き剥がしてもいいけど?」

「えっ?!」

「僕の大事な恋人が泣きだしそうだからね。離してくれないかな?」

 やんわりと、けれど逆らうことを許さないような声でそう言うと、少女は渋々と腕を解いた。

「・・・僕は不二周助って言うんだ。この人は僕の恋人」

 そう言いながら、不二は の華奢な身体を引き寄せた。

「僕は の王子だから、君の王子様にはなれない」

「周くん・・・」

「わたしの王子様、見つけたと思ったのに」

 悲し気に言った少女の肩にポンと大きな手が置かれた。

「だめだよ、クルミちゃん。不二はああ見えて腹黒い王子様なんだにや〜」

 にこにこした笑顔で菊丸が言うと、桃城も頷いて。

「そうそう。ヘンな男に捕まってちゃダメだぞ〜」

「あんなに真っ黒な王子は、世界中探しても見つからないと思うけど」

 口々に言いたいことをいう仲間に不二は鋭い視線を投げた。
 すると、突き刺さる視線から逃れるように。

「クルミちゃん…だっけ?送ってくから、帰ろうぜ?」

「それがいいにゃ。いつまでもいると、危険だにゃ」

「そうっスね」

 そんな言葉を口にしながら、三人はクルミを連れて、足早にその場を去った。

 

 

 

 

「・・・相手は小学生よ?」

「うん。そうだね」

「ずいぶんキツイ言い方したのね」

「そうかもね」

「どうしてあんな言い方・・・」

 そう訊いてくる彼女に、不二は色素の薄い瞳に穏やかな光を宿して。

が泣きそうだったからね。それに、君以外の女の子に抱きつかれても、嬉しくないよ」

「周くん・・・」

「誰を悲しませても、僕は を泣かせたくないんだ。だから一一一」

「・・・うん」

「大好きだよ、

「私も周くんが大好き」

 広い胸に顔を埋めてそう言うと、不二は嬉しそうに微笑んで、長い黒髪をそっと梳いた。

 そして、ほのかに桜色に染まった の頬を両手で捕えて、柔らかい唇をキスで優しく塞いだ。

 




 

END

おかしい・・・ さんがもっと妬くはずだったのに。
ストーリーに無理があるのは分かってますが、どうしてもね〜。
タイトルはイマイチだし、内容も…。
ならアップするなって感じですね(苦笑)

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