タカノツメバレンタイン その後

 

「ねえ、 先輩」

 不二と が部室前で話をしていると、いつのまにか練習を抜け出してきた越前がいた。

「あ、越前君。おはよう。私になにか用?」

 ふわりと微笑んで がそう言うと、越前は帽子をグイッと被り直して。

「バレンタインのチョコ、俺にもくれませんか?」

「君の分はないよ」

 越前の問いに答えたのは、 ではなく不二であった。
 その不二を越前は、睨み付けた。

「なんでいつもアンタが答えるんすか! 先輩と喋らせてもくれないワケ?」

「そうだって言ったらどうするの?」

 笑みを深くして、不二が言った。
 その表情は、明らかに物語っている。

 

 

 

一一一いいかげんに諦めたら?


 

 

 とつぜん険悪なモードになってしまった二人をどうしていいか分からずに、 が困惑していると、天の助けとばかりに、そこへ手塚が通りかかった。

「何を騒いでいるんだ?」

「手塚君」

「・・・原因は か」

 手塚は深いため息をついて、いまだに交戦中の不二と越前に目を遣った。

「止められなくて困ってるんだけど…どうしよう」

 そう が手塚に言うと、彼は眉間の皺を増やして。

「どうしようと言われても、な。お前が止められないのを、俺に止められるとでも?」

 そう言われて、 は肩を落とした。
 確かに が止められなければ、他の誰にも止められない。
 越前はどうにかなっても、不二は 以外になんとかできるハズがない。
 二人の間には、見えない火花がバチバチしていて、このままにしておくには些かマズイ状況である。

「ど、どうしよう」

「越前は朝練中だぞ、

 突然背後から現れて、頭の上に降ってきた声に驚いて が振り向くと、そこには乾の姿があった。
 その手には、紫色の液体が入ったジョッキを持っている。
 気のせいでなければ、 妖し気な液体からは煙が出ている。

「あ、乾君か。びっくりした」

「ああ、すまない。ところで、あいつらを止める方法だが・・・」

「なにかあるの?」

「ああ。 手塚」

 元テニス部の部長である男の名前を乾が呼ぶと、手塚は納得した顔で首肯した。

「越前!」

 そう鋭い声を投げると、越前の視線が不二から手塚に注がれた。

「いま取込み中っスよ。後にしてください」

 そのセリフに手塚はふうっとため息をついて。

「すっかり忘れているようだが、今は朝練中だぞ」

「あっ・・・!」

「越前。ペナルティーだな」

 乾がそう言って、手に持っていたドリンクを越前に近付けた。

「うっ・・」

 越前は鼻を押さえて、後ずさると、テニスコートへ向かってダッシュしていった。

 

 

 

 ようやくケンカが治まったことに はホッと息をついた。

「ありがとう。手塚君、乾君」

 そう言って、 は微笑んだ。
 そして、とんでもない発言をした。

「二人には何かお礼しなきゃね」

 にっこりと笑ってそう言うと、手塚と乾はほぼ同時に首を横に振った。

「「いや、遠慮しておく」」

 よく見ると、二人とも顔が青くなっていた。

「そう?無理にとは言わないけど…。でも、ホントにありがとう」

「「いや」」

 二人は異口同音でそう言うと、部室へ姿を消した。
 その様子に訳が分からずに、 が首を傾げていると、不二はクスッと笑みを零した。

「周くん?どうしたの?」

「いや。流石だなって思ってね」

  が絡むと、不二は容赦がないということを、二人はよく知っている。
 もっとも、懲りない男たちもいるのだが。

「ねえ、 。僕以外の男にチョコをあげたらダメだからね?」

 

 そう、例え義理でも。
 僕以外の男に、チョコじゃなくても、あげないでね?


 そう耳元で囁くと、 はキョトンとした顔で、不二の秀麗な顔を見上げた。

「チョコレートは好きな人にあげるものでしょう?だったら、私のあげる人は周くんだけよ」

 そう が笑顔で言うと、不二は満足そうに微笑んだ。

 

 

 

 

END

きっと さんが予想していた展開だと思います(苦笑)
独占欲の強い周助くんを書くのが、とっても好きなんですもの。
あ〜楽しかった(コラコラ〜)

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