七月に入って、初めての土曜日の夜。
 あと一時間程で真夜中になろうとしている時刻に、携帯が鳴った。
 静かな部屋に響く着信音は、彼女専用にしてある音で、僕は読んでいたテニス雑誌をベッドの上に無造作に置いて、鳴り響く携帯を手にとった。

『もしもし?周助?』

 凛としてソプラノよりアルトに近い声が耳に届く。 
 久しぶりに聴いた の声に、自然に笑みが溢れる。

、どうしたの?こんな時間に珍しいね」

『ごめんね。寝るところだった?』

 あいかわらず自分のコトより人のコトを心配する彼女に、思わず苦笑する。
 まあ、そこが を好きな理由のひとつなんだけど。
 彼女のどこが好きかなんて、限定できないほど、 に溺れている僕だけど、日々を重ねるごとに愛しさが募って、彼女の仕種すべてが愛しくて仕方がない。

「大丈夫だよ。まだ寝るには早いしね」

『そう?それならよかったわ。・・・・あのね、周助』

「ん?」

『来週の水曜日の夜、なにか予定ある?』

「来週の水曜?」

 言いながら、壁に掛けてあるカレンダーに目を遣り、日付を確認する。
 その日は7日で、七夕だった。
  が急に電話してきた理由は、なんとなく分かった。
 でも彼女から言い出すまで、僕は気付かないフリを続ける。

「なにも予定はないよ」

『ホント?だったら…一緒に町内会の七夕祭りに行きたいんだけど。・・・ダメかな?』

 クスッ。僕が君の誘いを断るワケないじゃない。
 君が僕の世界の中心だってこと、いつになったら気付いてくれるんだろうね。

「ダメな訳ないだろ。すごく嬉しいよ、

 

 

The Seventh Night of July

 

 

 待ち合わせの時刻より20分早く、僕は と約束した場所に着いた。
 彼女は約束した時間より早く来る人だから、僕は彼女と待ち合わせる時は、早く来るようにしている。
 大事な彼女を待たせたくないから。もっとも、理由はそれだけじゃない。
 僕以外の男が を見つめるのが許せない。こどもみたいな独占欲なのは分かっているけど、それでも僕は を独占したい。

 彼女が来る方角に目を遣り、人波を見ていると、背後に人の気配を感じた。
 でも、それが じゃないことはすぐに分かったから、振り向かずにいた。
 すると一一一。

「ふ〜じっ。にゃにしてんの?」

 背後から聞こえた声は、聞き覚えのある声で。
 振り向かなくても誰だかはっきり分かった。

「英二か」

「当ったり〜。で、なんでこっち向かないにゃ?」

「もうすぐ が来るから」

「えっ?でも、話してたって大丈夫っしょ?」

「ダメ。一秒でも早く、 の顔を見たいから」

「相変わらず、ラブラブなんだな〜」

「うん。分かったら消えてくれる?英二?」

 一瞬だけ英二に視線だけを向けて、ニッコリ笑って言った。

「ご、ごめんにゃ〜〜〜っ」

 言いながら、英二は夜店の並ぶ通りの中を、ダッシュしていった。
 
 まったく。英二は懲りないよね。
  が絡んだ僕は容赦がないってこと、いいかげん分かって欲しいよ。

 目線は が来るだろう方向に向けて、ひとつため息を吐いた。
 その時、数十メートル先に、愛しい彼女の姿を捕えた。
 待ち合わせの時刻までまだ余裕があるのに、僕の姿に気付いた は走り出した。
 けれど、浴衣と下駄で走っている姿は、見ていて危なっかしい。
 だから僕は、彼女の傍に走り寄って。

。そんな格好で走って転んだらどうするの」

「だって・・・」

  が上目遣いで僕を見上げて言った。
 ふてくされているような表情で僕を見る は可愛いけど、それとこれとはワケが違う。

「だってじゃないでしょ」

「・・・ごめんなさい」

 渋々とだけど、 はそう言った。

「怒ってごめん。でも、君が心配なんだよ」

「うん。 心配かけてごめんなさい」

「分かってくれればいいんだ。 ところで・・・」

「なに?」

「浴衣を着てきてくれたんだねv」

  が浴衣を着ているのは、僕が電話で『浴衣を着て欲しい』って言ったからなんだけど一一一。
 紺色の生地に赤い花柄の浴衣を着た は、長い髪を結い上げているせいか、いつもより艶やかで。
 でも、微笑む顔はいつもの優しい で、僕は目を逸らせないでいた。
 一度意識してしまうと、増々目が離せなくて。
 更には、 が可愛すぎて、抱きしめたくなってしまう。
 
「一一一一一一ね」

「え?ごめん。もう一回言ってくれる?」

  に魅入ってしまって、彼女の声を聞き逃してしまった。
 気を悪くしたかも、と心配したが、彼女はそれには触れずにいてくれた。

「周助も浴衣なのね、って言ったのよ」

「ああ。きっと は浴衣を着てきてくれるって思ったから、僕も浴衣でって思ってさ」

 せっかくの七夕なんだし、お揃いとはいかなくても、 と同じ恰好をするのもいいかと思ったんだよね。
 そんな心の中は には気付かせないように、微笑みかける。

「そうなの? ふふっ。周助を誘ってよかった。私トクしちゃったわ」

 え?どういう意味?

「実はね、周助の浴衣姿、見てみたいって思ってたから」

 そう言って、 は嬉しそうに笑う。
 あどけない表情は、年上と思えないほど可愛くて。

「クスッ。言ってくれればよかったのに」

 そう言うと、黒い瞳を瞬きさせて。

「それもそうね。 それにしても・・・・」

「それにしても、なに?」

「・・・・カッコイイ」

 消え入りそうなほど小さい声だったけど、僕の耳にはしっかり届いた。

もすごく可愛いよ。いますぐお持ち帰りしちゃいたいくらいね」

 そう耳元で囁いて、そっと細い身体を抱き寄せて、唇に軽くキスを落とした。
 唇を離すと、 はほんのりと薔薇色に染まった頬で、僕を上目遣いに睨んで。

「周助のばか」

「ごめん。つい、ね」

  があまりにも可愛いから、我慢できなくて。
 心の中でそう付け加えて。

「さ、行こうか。 短冊に願いごと、書くんでしょ?」

 そう言って細い手を取る。

「はぐらかしたわね?」

「フフッ」

「もうっ…仕方ないから許してあげるわ」

 言いながら、 は僕と繋いでいる手に僅かに力を入れて、握り返してくれた。

「ありがとう。  、大好きだよ」

 そう言うと、 は驚いたように瞳を見開いて。
 でもすぐに花が咲いたようにふわっと微笑んで。

「私も周助が大好きよ」







 

 

 

 

「ねえ、短冊には何を書いたの?」

「ヒミツ。周助は?」

が教えてくれたら、教えるけど?」

「じゃあいいわ」

「クスクス。でも、 にはトクベツに教えてあげる」

「え?」

「君が聞き届けてくれないと、僕の願いごとは適わないからね」


 

一一一いまも これからも ずっと

           僕の隣で微笑んでいてね 



 夜空に散らばる無数の星々に想いの全てを込めて願う。


「ずっと僕の隣にいて欲しい」

「うん。傍にいるわ、ずっと。 私の願いも同じだから一一一」

 優しい笑みを浮かべてそう言った を、僕はギュッと抱きしめて腕の中へ閉じ込めて。
 彼女の耳元で、もう一度囁く。

「誰よりも、 を愛してる」

 そして、桜色の唇にさっきより長くて深いキスを落とした。

 

 

 

 


END

ちょっと砂糖を入れ過ぎた??
たまには周助くんにたくさん甘えたくて(笑)
かなり自己満足ドリームですみません(汗)

ヒロイン溺愛・策士で甘い周助くんドリームが
アンケートで人気?が高かったせいもあるのですが・・・。

 

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