日本から遠く離れた土地に が暮らし始めてから、約二ヶ月が過ぎた。 自分が生まれ育った国以外で生活することに、やはり迷いは生じた。 気候も風土も文化も違う。なにより一番に異なるのは、言葉。 それに、周助と一緒にイギリスへ行くということは、五年間続けた仕事も辞めなければならない。 けれども、様々な迷いは、彼の傍にいられることの喜びには、取るに足らないことだった。
今から二ヶ月前の
の誕生日に、三月に大学を卒業した周助は、彼女に結婚を申し込んだ。 周助と一緒に生きていきたいから一一一。
Forever and ever
六月上旬、ロンドン郊外の小さな教会で、二人は式を挙げることに決めた。
は控えになっている部屋の窓から、庭を眺めていた。 ウェディングドレスに身を包んで、その風景を見ている
の耳に、控えめに扉を叩く音が聞こえた。 「
、入ってイイ?」 扉の向こうから聞こえた声に、 は花が咲いたようにフワッと微笑んで。 「ええ。大丈夫よ」 そう返事をすると、扉がゆっくりと開かれた。 「周助、どうしたの?」 何も言わずに自分を見つめたまま動かない周助に、言い知れない不安を感じた が言った。その声色に彼女の不安を読み取った周助は、フッと笑って、扉を閉めると の傍に歩み寄った。 「君がとてもキレイだから、見とれてしまったよ」 そう言うと、 の白い頬が、深紅の薔薇のように赤く染まって。「あ、ありがと。 周助も素敵よ。すごくカッコイイわ」 照れながらも目の前で微笑む周助にそう言うと、彼はクスッと笑って。「ありがとう。嬉しいよ、 」 周助は の華奢な身体を包み込むようにそっと抱き寄せて、柔らかい唇にキスを落とした。啄むようなキスをして、ゆっくり唇を離した。 そして。
「・・・ を必ず幸せにするから」 彼女の黒い瞳を、色素の薄い瞳で真摯に見つめて彼が言うと、 はコクンと頷いて。「うん。 私も…私もあなたを幸せにしたい」 「僕は君が隣にいてくれたら、いつでも幸せでいられる」「私もそうよ。周助がいてくれるから、幸せなの。だから一一一」 「ああ。ずっと一緒だよ、 。僕は絶対に君を離さない。この先なにがあっても、 を守るよ」 熱のこもった真摯な瞳でそう言うと、 は黒い瞳に涙を浮かべた。 「嬉しい。周助」「クスッ。泣いたらメイクが落ちちゃうよ?」 「周助のいじわる」涙を瞳の端に浮かべたまま、上目遣いで彼を軽く睨んでそう言うと、周助はフフッと笑って、彼女の目元に浮かぶ涙を指先でそっと拭うと、再び に熱いキスを落とした。
しばらくして、再び扉が叩かれた。 「はい。どうぞ」 周助がノックに答えると、この教会の牧師夫人が姿を現した。 「ええ。一秒でも早く、ウェディングドレスを着た の姿を見たかったんです」 その言葉を聞いた夫人は一瞬目を瞠って、その後にっこり微笑んだ。「とても可愛い花嫁さんですものね」 「はい。世界で一番可愛い花嫁ですよ」「ふふ。こんなに愛してくれる方がいらして、あなたは幸せね」 そう言いながら、夫人が にブーケを差し出すと、彼女ははにかむように微笑んで、そのブーケを受け取った。「ありがとうございます」 がブーケを受け取ると、夫人はにっこり微笑んで、部屋を出ていった。
が受け取ったブーケは、白薔薇を基調にし所々に緑のアイビーを配色して作ったハーモニーブーケだった。 『結婚式に青いものを身に付けると幸せになれる』 それにちなんで、
がブーケを作る際に入れてくれるように、フラワーコーディネーターに頼んだものだった。
「 」 愛しい恋人の名前を呼んで腕を差し出す。は周助の左腕に、レースの手袋をはめた細い手を絡めた。
扉が厳かに開かれ、二人は祭壇へ続くバージンロードを、ゆっくり歩く。
「汝 不二周助一一一
を妻とし神の定めに従い 病める時も 健やかなる時も 富める時も 貧しき時も
「誓います」 「汝
一一一 不二周助を夫とし神の定めに従い 病める時も 健やかなる時も 富める時も 貧しき時も
「誓います」
「一一一指輪の交換を」 周助は の左手を取って、薬指に指輪をはめた。そして も、周助の左の薬指に指輪をはめた。
「では、誓いのキスを一一一」 が黒い瞳をそっと閉じると、周助は桜色の唇にゆっくりキスを落として、二人は永遠の愛を誓った。周助が唇を離すと、 の頬に涙が一筋流れた。 その涙を周助はそっと指で拭って、優しく微笑んだ。
その光景を見守っていた牧師は、顔に優しい笑みを浮かべて。 「神の名の元に二人は夫婦と認められた一一一」
そして教会の前で、寄り添い合い、幸せに微笑む二人の姿を、周助の知人であるカメラマンが写真に撮った。 の細い肩に腕を回して抱き締めて、周助は最高に幸せに微笑んでいて、 はそんな彼の胸に幸せそうに身体を預けて一一一
「私とても幸せよ、周助」 「僕も幸せだよ。 これから僕が をもっと幸せにするから。ずっと永遠に・・・」 「うん。 愛してるわ、周助」 「僕も を愛してるよ」
そっと二人の距離が縮まって、重なった唇は、しばらくの間離れることはなかった。
そして二人が結婚式を挙げてから、数週間が過ぎた七月上旬。 ウィンブルドンのセンターコートで、周助は愛しい妻が見守る中、優勝を決めた。
たとえなにがあろうとも
一一一愛してるよ
END
Anjelic Smile・Ayase Mori 2004.06.18
サイト二周年記念フリー配布夢・再録。 |