朝日が昇り、夜が明ける頃。
  は目が覚めた。
 そして、自分の隣に眠る周助を黒真珠に似た穏やかな黒い瞳で見つめて、微かに微笑んだ。
 彼を起こさないように、自分を抱きしめている腕をそっと外して、ベッドから身を起こした。

 

「おはよう」

 周助の耳元で小さな声で囁いて、 は寝室を後にした。


 寝室の扉が閉まるのを耳朶で確かめて、周助は色素の薄い瞳を開けて、クスッと笑った。
 周助は、 が目が覚めた時、目が覚めた。
 彼は の気配にとても敏感で、抱きしめていた温もりを感じなくなった瞬間、起きたのだった。
 でも、そこで起きてしまうと、 の笑顔が曇ってしまうから一一一。
 だから周助は、いつからか眠っているフリをするようになった。
 もっとも、週末に が早起きするのは、稀なことだが。
 なぜ稀なのか、と言うと、原因は周助にある。
 平日に に触れられなかった時、日頃の反動からか、週末の夜の周助は激しい。
 つまりは、彼が無理をさせすぎているのだ。
 自覚はあるのだが、新妻が愛しくて、愛しすぎてコントロールできない。

 


 


 

ずっと・・・


 


 


 レタスをちぎって、人参と胡瓜を千切りにして、ガラスの器に盛り付ける。
 ドレッシングは周助の好きな辛めのものを用意する。とうぜん の手作りである。
 スクランブルエッグには、ほんの少しミルクを入れて、ふわっと仕上がるようにして。
 真っ白な皿に盛り付けた後、上に先程作ったトマトソースをかける。
 クルミが入ったブレッドを少し厚めにスライスして、切り込みを入れる。
 そこに生食用のほうれん草、スライスした玉葱、生ハムを挟んで、食べやすいように半分に切る。
 そして、やかんをガス台にかけて、弱めに火をつけると、 は寝室に向かった。


 控えめに扉を開けて、ベッドに眠っている周助の姿を目にして、 はホッと息をつく。

(よかった。起きていなくて)


 仕事で疲れている周助を起こしてしまわなくてよかった。
 休日はゆっくり休んで欲しい、そう が願っているのを周助は彼女の表情から、読み取っていた。
 だから、眠ったフリをするようになった一一一はずなのだが。


「周くん、起きて?」

 耳元でそう言うが、周助は変わらず寝息を立てている。
 もう少し大きめな声で、同じ言葉をかけてみたが、周助の瞳は開かない。
  はしばし思案して、周助の頬にキスを落として。

「周くん、朝だよ?朝ごはん冷めちゃうよ。ね、起きて?」

 そう声をかけると、瞼が開いて、色素の薄い穏やかな瞳が を捕えた。

「起きた?」

「うん」

 言いながら、周助はベッドから身を起こした。
 そして、 の華奢な身体を抱きしめて、腕の中に閉じ込めると、柔らかな唇にキスを落とした。

「・・・おはよう、

 蕩けるような笑顔で挨拶をすると、 は嬉しそうに微笑んで。

「おはよう、周くん。・・・もうすぐお湯が沸くから、先にいってるね」

 そう声をかけて、 はパタパタと軽い足音をさせて、寝室をでていった。
  の顔を愛しそうに、眩しそうに瞳を細めて見つめていた周助は、彼女がいなくなると、笑みを深くした。

「フフッ。君はどこまで僕を夢中にさせるんだろうね」

 

一一一ねえ、 。僕を夢中にさせた責任、とってもらうよ


 


 


 


 


「コレ、おいしいね」

 スクランブルエッグを一口食べて周助が言った。
 すると、 は黒い瞳を輝かせて。

「ホント?嬉しいな、喜んでもらえて」

 そう答えた に、周助はクスッと笑って。

が作るものはなんでもオイシイよ」

「そう言ってくれると、すごく嬉しいけど…」

「けど?」

 彼女の言葉を待っていると、頬を桜色に染めて。

「あんまり誉められると、恥ずかしいよ」

「クスッ。毎日言ってるのに慣れない?」

 そう訊ねると、 はコクンと頷いた。

(可愛いなあ、

 周助はクスッと微笑んで。


「 ? 」

「愛してるよ、

 椅子から立ち上がり身を乗り出して、 の唇にキスを落として、周助はにっこり微笑んだ。

「ずっと君を離さないから、覚悟してね」

「・・・うん。離さないで。傍にいて・・・」

 頬を真っ赤に染めながらも、周助の瞳を見て がそう言うと、彼はそれは嬉しそうに微笑んで。

 

 

「離さないよ。・・・ の傍にいるのは、 を抱いていいのは、僕だけだから」


 

 そして朝食を食べて、後片付けをした後一一一
 周助の言葉は実行に移されたのだった。

 


END

 


2004.02.XX
Congratuate 30000 over.Thank You.

wrote by Ayase Mori   2004.05.14

 

30000HITS記念のアンケートお礼にDLFにしたもの。現在はフリーではありません。
再録しない予定でしたがメールに反応のない人が多かったし、このままお倉入りももったいないので(苦笑)
お気に入りドリームのひとつです(笑)

HOME