シングルス3の試合が終わって、立海大の柳君に勝利した乾君がスタンドへ戻ってきた。
 そして次はシングルス2の試合。
 周くんと立海大のエースと呼ばれる人の試合が始まる。
 青学はダブルス2、1を落としているからシングルスの試合を全勝しないと優勝できない。

「頼むぞ、不二」

 大石君がそう言うと、彼は普段あまり見ることのない真摯な表情で。

「ああ」

 ジャージを脱ぎながら、短く答えた。
 そして。



 私の前に差し出されたジャージを受け取って、それをぎゅっと握りしめた。

「周くん、頑張って」

「うん。 必ず勝つから、見ていて」

「うん」

 少し背伸びして、周くんの頬に軽くキスしてさっと身体を離した。
 彼はちょっと驚いたように目を瞠ったけど、切れ長の瞳をふっと細めて。

「ありがとう」

 そう言って微笑した。

 






『これよりシングルス2の試合を始めます』



 会場にアナウンスが響いた。

 

 

 頑張って、周くん!






Goddes of Victory





 試合開始直後から、周くんは攻めていた。
 彼にしては珍しいけど、それだけ切原君という人が強いのだろう。
 先程からラリーの応酬で、どちらにも点が中々入らない。

 けれど周くんはトリプルカウンターを駆使して、1−0とゲームをリードした。


 彼のまとう空気が鋭く感じるのは、気のせいじゃない。
 いつもは穏やかな瞳は、炎を宿しているようにも見えて。
 今の彼は、ルドルフの観月君と試合をした時みたいに、何か決心をしているような、そんな表情。

 2ゲーム目を周くんが取って、3ゲーム目が始まった。
 そしてしばらくラリーが続いていた。
 その直後、切原君の鋭い打球が周くんの頭を直撃した。


「周くん!!」


 心臓が凍りつく。
 スタンドの皆も彼の名前を口々に叫んでいて、目の前の出来事が幻じゃないことを告げていて、恐くなった。
 
 でも、周くんはゆっくりとした動作だったけど、立ち上がった。
 彼の傍に駆け寄った竜崎先生と何か話している。
 そして。
 試合はそのまま続行になった。

 だけど、周くんの動きがおかしい。
 技にキレがない。

「まさか…不二は目が見えてないんじゃないか?」

 隣にいる乾君がそう言った。



 それって…さっきのボールのせいで?



 するとそれを肯定するように、切原君の声がして。

「見えないってのに、よくやるねぇ」

 その言葉に私は驚愕した。

 視力を失っても試合を続ける彼。
 ボールを追って走って。
 何度も何度も切原君の打球は周くんの身体に当たって。
 それでも試合を続ける彼を私はただ見守っていた。

 最後まで応援すると約束したから。
 周くんの勝利を信じてるって約束したから。

 周くんが戦っているんだから、私は試合から目を逸らしちゃいけない。
 



「周助!頑張って!!」



 応援しかできないけど、信じてるって言ったら、彼は笑ってくれた。

がいるから、強くなれる」

 周くんはそう言った。
 だから、私は彼の勝利を信じる。









 

「よかった・・・」

 シングルス2の試合が周くんの勝利で終わったのを見届けた瞬間、私はその場にしゃがみこんでしまった。
 ほっとして、張り詰めていたものがなくなったから。

「わっ、 ちゃん。だいじょぶ?」

 隣にいる菊丸君にそう訊かれて、私はコクンと頷いた。
 胸がいっぱいで、声を出すことができなかった。
 
 そのうちに、大石君に支えられて戻ってくる彼の姿が視界に映った。

「不二、目は大丈夫なのか?」

 河村君がそう訊くと、周くんはいつも通りの声色で。

「ああ。なんとかね。といっても、まだ見えないけど」

「不二先輩、お疲れさまっス」

「越前? 助かったよ、サンキュー」

 スタンドに帰ってきた周くんに、レギュラーの皆が労いの言葉をかけている。

 彼の傍にいって、「お疲れさま」って言いたいのに、足に力が入らない・・・。
 駆け出して、周くんの傍に行きたいのに。

は?」

 彼の声が耳に届いた。

ならこっちにいる。どうやら立てないみたいだぞ」

 私が立てないことを察したのか、乾君がフォローしてくれた。

「・・・周くん・・・」

 やっとのことで彼の名前を呼ぶと、彼は声で私のいる位置が分かったらしく、大石君の支えから離れて、迷うことなく私の方へ歩いてきてくれた。

?」

 彼の手が宙を彷徨って。
 私は腕を伸ばして大きな手を取った。
 すると、周くんは優しく微笑んで、しゃがみこんだ。

「大丈夫?」

「うん、平気。 周くん」

「ん?」

「お疲れさま。それから、おめでとう」

 言いいながら、耐えていたのに涙腺が弛んでしまって、涙声になってしまった。
 すると。

「泣かないで、 。 最後まで見ていてくれてありがとう。君の応援、聞こえたよ」

「うん」

「君が信じてくれたから、みんなの声援があったから勝てたんだ」

「・・・周くんが青学のことを大切に想っているからよ。だから・・・」

「うん、そうだね。 でも、僕の中の の存在は、君が思ってる以上に大きいんだよ」

 彼の手が私の頬を優しくなぞって。
 そっと彼を見ると、彼は穏やかに笑っていて。
 そして、色素の薄い瞳には光が戻っていた。

「周くん、目が・・・」

「ああ。たったいま、ね。君が言ってくれたからだよ」


 青学のことを大切に想っているって分かってくれたから。
 だからだよ。


「よかった・・・」

 そう言うと、周くんに抱き寄せられて。

「君がいてくれてよかった」

「え・・?」

「大好きだよ、

 そう言って彼はとびきり素敵な笑顔で微笑んだ。
 それに私も微笑み返して。

「私も大好き」






「二人とも、お取り込み中悪いけど、次はオレの試合なんだけど?」

「ご、ごめんなさいっ。私・・・っ」

「いいよ。悪いのは不二先輩なんだし。 でも、悪いって思ってるなら、応援してよね?」

「うん、もちろん応援するわ。頑張ってね、越前君」

「越前」

「なんすか?」

「相手は日本中学テニス界で間違いなく一番強い相手だ」

「望むところっスよ」

 そう言って、越前君は不敵に笑った。

先輩、オレが勝って優勝して見せますよ」

「期待してるよ、越前」

 そう周くんが言うと、越前君は苦虫を噛み潰したような表情で。

「どーも」

 そう言った。
 そんな越前君に私は。


「頑張って、越前君。ケガ、しないようにね」

 そう声援を送ると、驚いたように目を見開いて白い帽子を被り直した。

「 ? 」

「クスッ。越前、照れてるみたいだね」

「そうなの?」



 

 青学のみんなの声援が上がって。
 シングルス1の試合が始まろうとしていた。

 

 

 



END

青学VS立海大 S2の試合ドリーム、やっとアップできました。
かなりオリジナルになっていますが、笑って許してやってください(汗)

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