夏休みが始まるまで、あと5日となった7月の暑い日。
 放課後の部活が終わったあと、僕は図書室で待ってくれている彼女の元へ急いだ。
 今日の部活はミーティングだけだったから早く終わった。
 そして、 が所属している演劇部は休みで、彼女が

「周くん、一緒に帰れるかな?終わるまで待ってるから」

 そう訊かれて、断る理由は全くなかった。
 だから。

「もちろんいいよ。そんなに時間はかからないと思うから」

「ホント? よかった」

「でも、外で待ってちゃダメだからね」

「え?どうして?」

「こんなに暑い中待っていたら、 が倒れちゃうじゃない」

「そんなにか弱くないよ?」

「ダメ。心配だから」

「周くんたら・・・」

 そう言ってくすくすと笑いながらも、 はそれを承諾してくれた。

 

 

 

僕の彼女

 

 

 

「でね、手塚が怒ってグラウンドを…って、 ?僕の話聞いてる?」

 今日のミーティングであったことを話していると、隣を歩いている が突然黙りこんでしまった。
 彼女の顔を覗き込むと、可愛い眉間に皺がよっていた。

、どうしたの?」

 そう訊ねると、黒い瞳がハッとしたように僕に向けられて。

「あ・・・ごめんね。ちょっと考え事してたの」

 そう言って、バツの悪そうに笑ってみせた。

「考え事って?」

「たいしたことじゃないから、平気」

「平気じゃないでしょ。何があったの? 僕には言えないこと?」

「言えない訳じゃないけど・・・周くん笑わない?」

 僕の顔を上目遣いに見て、そう言った。
 そんな仕種で可愛く言われたら、頷くしかできないじゃない。

「笑わないよ。約束する」

 そう言うと、 は安心したのか、ホッと息をついて。

「あのね・・・周くんはゲームって得意?」

「え?」

 予想すらできなかった言葉に、間抜けな声がでた。
 でも、 はそれに気付かずにそのまま言葉を紡ぐ。

「ゲームセンターにあるでしょ?クレーンゲームとか、そういうの」

 何を言いたいのか訳が分からない。
 でも、 の瞳はとても真剣で。

「英二に付き合わされてやったことあるけど、そんなに難しくなかったよ」

 そう答えると、 は僕のワイシャツの裾を掴んで。

「・・・欲しいものがあるの・・・」

「欲しいもの?」

 言葉を繰り返すと、彼女はコクンと頷いて。

「ひぐまのぬいぐるみが欲しいの」

 俯いたまま、彼女はそう言った。
 顔は見えないけど、長く艶やかな黒髪から微かに見える耳は真っ赤に染まっていた。
 きっと可愛い顔はもっと赤く染まっているに違いない。

 聞きたいことは山積みだけど、それはあとで聞けば済む。

「いいよ。とってあげる」

 そう言うと、 はゆっくり顔を上げて、確認するように僕を見上げた。
 黒い瞳は「いいの?」と言っていて。
 あまりにも可愛くて、僕は笑顔で頷いた。

「いいに決まってるじゃない」

「嬉しい。周くん大好き」

  はよほど嬉しかったようで、僕にぎゅっと抱きついてきた。

 そんな可愛いことされたら、我慢できなくなるじゃない?
 
 まあ、お礼はあとでたっぷり から貰うからいいけどね。




 

 

 そして僕たちは青春台駅前の繁華街にあるゲームセンターに向かった。


が欲しいのってどれ?」

「この茶色い羆が欲しいの」

 入口近くのクレーンゲームのガラスケースの中には何種類かの動物のぬいぐるが入っていた。
 その中に が欲しがっている茶色い羆のぬいぐるみがあった。
 それはたくさんのぬいぐるみの一番上にあって、とりやすそうだった。

「とれるかな?」

 そう訊く に笑いかけて。

「任せて。これならすぐにとれるよ」

 ゲームをするためにコインを入れる。
 そしてクレーンを操作して、左端にある茶色の羆を掴んだ。

「ほら、とれたよ。

「うんっ」

 その間にクレーンは自動的にスタート地点へ戻って、ポケットにぬいぐるみを落とした。
 出てきたぬいぐるみを取って。

「はい、

「わぁ・・・ありがとう、周くん。すごく嬉しい」

  は幸せそうに微笑んで、とってあげたぬいぐるみを嬉しそうに抱きしめた。
 ちょっと…かなり面白くない。
  が喜んでくれたのは嬉しいけど、複雑だ。
 そんなことが表情に出ていたのか、 が不思議そうに僕を見ていた。

「周くん、どうかした?」

「いや、なんでもないよ」

「そう?」

 いまいち納得してない表情で彼女が僕を見つめる。
 こういう時は話を逸らすまで。
 本当のことを話すなんて、カッコ悪い姿は見せたくないから。

「そのぬいぐるみ、どうして欲しかったの?」

 不自然にならないようにさりげなく、訊きたいと思っていた疑問を投げた。
 すると は微笑みながら。

「周くんに似てるから欲しかったの」

「僕に?」

「うん。ほら、表情が笑ってて似てるじゃない?」

「そうだね、似てるかもしれない。 でも・・・」

「でも?」

「僕の方が何倍もイイオトコだと思うけど?」

  の耳元でそう囁くと、彼女は驚いたように目を見張って。

「周くんてば、普通は自分で言わないわよ?」

「じゃあ、 が言ってくれる?」

 にっこりと笑いながら言うと、 は僕から視線を逸らして。
 そして小さな声で。

「こんなトコじゃ言えないわ」

「クスッ。そう言うと思った」

「分かってて言うなんてズルイ」

 頬をむうっと膨らませて言う が可愛くて、僕は細い身体を抱きしめた。
 そして彼女の耳元で。

「それなら僕の腕の中でなら言ってくれる?」

「え?」

「君からのお礼…欲しいんだけど?」

「・・・・・」

「ダメ?」

「・・ダメじゃない・・・」

 

 そのあとは僕の部屋で、 からの可愛いお礼をたくさん貰った。

 

 

 

 


END

7/29のラジプリを聴いて突発的に書きたくなりまして(笑)
ぬいぐるみはテニプリのゲーセンにあるアレがモデルです。
しょうもないギャグですが…読まれた勇敢な方はいらっしゃいますか?(笑)

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