桜色円舞曲 〜オマケ〜

 

 

 パーティが終わって家に帰るために車に乗ると、運転席に座った由美子がエンジンをかけながら、後部座席に向かって。

ちゃん、ウチに泊まっていくんでしょう?」

「・・・・え?」

 言われていることを理解するのに、暫しの沈黙があった。
  の返事に由美子は形のいい眉を顰めて。

「『え?』」

  の言葉を繰り返して、由美子は の隣に座る周助に目を遣った。
 すると周助は面白そうにクスッと笑って。

「うん、そうだよ。 のご両親から了承も頂いているしね」

「いつ?」

 周助の言葉に反応したのは だ。

「フフッ。姉さんが の着替えを手伝っている時だよ」

 由美子はてっきり がウチに泊まるものだとばかり思っていたのだが、 が驚いているということは、周助は恋人には何も言わず、姉だけに言っていたことになる。
 いつもながら、弟の手際の良さというか根回しというか…呆れを通り越して関心すらしてしまいそうになる由美子であった。
 周助は一度決めたコトを翻すような性格ではない。彼の最愛の恋人が絡むコトならば、尚のコト。
 由美子は嘆息して、アクセルを踏み出した。
 一方、二人の会話を聞くだけだった は、隣に座る恋人の秀麗な顔を見つめた。
 夜なので明りは窓から入る外灯の光だけだ。
 だが、至近距離なので、彼の顔がはっきりと認識できる。

「周くん」

「なに?

「ちゃんと説明して」

 じっ、と彼の瞳を見つめて問いかけると。

「今日は遅くなるから、 を自宅に送ると真夜中に近くなるでしょ?」

 パーテイ会場であったホテルは、青春台の隣街に位置している。
 方角でいうと西側で、 家と不二家はともに同じ方角なのだが、不二家の方が若干ホテルに近い。
 ホテルからお互いの家までの距離はさほど変わらないが、あまりにも遅い時間に自宅へ送るのはどうかと思い、周助は の両親に話を通したのだった。
  の両親は周助を気に入っているので、「迷惑でないのなら」とすぐに了承がでた。

「ごめんなさい、気を遣わせてしまって…」

「何言ってるのさ。こんな時間まで君を連れ回すんだから当然のことでしょ。
 それに、 のドレス姿なんて滅多に見られないからね。
 少しの時間だけでいいから、君を独占させてよ」

(ずっと独占してるでしょうに…。ホントにもう)

 二人の会話は自然に由美子の耳に入るワケで。
 彼女はバックミラー越しに見えた嬉しそうに笑った弟に再び嘆息した。

「・・・私もね、もう少しタキシード姿の周くんを見ていたいな」

 すごくカッコイイから、と は続けた。
 すると周助の色素の薄い瞳が細められた。

「嬉しいよ、

 周助は心底嬉しそうに微笑みながら、華奢な身体をそっと抱きしめた。
 そして、 の耳元へ唇を寄せて。

「次に のドレス姿が見られるのは、僕たちの結婚式の時だね」

 その言葉の意味を正確に読み取った は、周助の瞳を見つめた。

「周くん…」

「一昨年の冬に約束したでしょ?」

「うん」

 黒い瞳を潤ませて頷いた に、周助は微笑を返して。

、愛してる」

「私も周くんを愛してる」

 そして周助は、柔らかな唇にキスを落とした。
 それをバックミラーで目撃してしまった由美子は、思わず苦笑した。
 
ちゃんも、本当に周助が好きなのねぇ)

 周助の腕に包まれて恥ずかしそうに、でもとても嬉しそうに笑う を見て、
由美子はクスッと笑みを浮かべた。

(やっぱり可愛いわね、 ちゃん。周助が独占したくなる気持ちが分かるわ)


は僕のだからね。誰にも渡さないよ」

  に気付かせないように、さりげなく釘を刺す。
 それが自分に向けられた警告であることが分かった由美子は、苦笑いを浮かべた。
 独占欲もここまでくればいっそ見事だ、と由美子は思った。

 そして、車は間もなく不二家に到着しようとしていた。

 

 

END