Wedding





 優しく吹いた風が、金色の髪を揺らす。金色といっても、金髪なワケではない。
 色素が薄いブラウンの髪が太陽に照らされ、金色に見えるだけのこと。
 それがとてもキレイで魅入ってしまう。

「ん?どうしたの?」

 自分を見つめる視線に気付き、不二は隣に立つ人を見つめた。
 顔に優しい笑みを浮かべて答えを待つ彼に、 はくすっと笑って。

「周助の髪、キレイだなって見とれていたの」

 そう言うと、不二は髪と同じ色をしたブラウンの瞳を少しだけ丸くした。
 けれど、それはほんの数秒だった。
 不二は切れ長の瞳を細めて、艶やかと不敵を足して2で割ったような笑顔を浮かべた。

の方がキレイだよ。ベールに隠れて見えないのが残念だね。 
 まあ、夜になったら間近で好きなだけ見られるけど?」

 フフッと楽しそうに不二が笑う。
 からかって彼女の反応を楽しんでいるのか、本心なのか、表情から読み取ることはできない。
 
  は彼の言葉に白い頬を薄紅色に染めて上げた。

「クスッ、可愛い」

「も、もうっ…」

 いつもよりドキドキするのは今日が結婚式だからだろうか。
 彼の笑顔を直視できない。
  は赤く染まった顔を隠すように、不二から視線を逸らした。
 すると、逸らした目線の先に彼女の親友がいた。
 
  と瞳が合った は、くすっと嬉しそうに笑ったような気がした。
 ふいに胸の中に熱いモノが込み上げてきた。
 その気持ちを形にするかのように、 にふわっと微笑んだ。
 それに は微笑み返して。
 
『幸せになってね』

 彼女の唇がそう動いた。
 声は聴こえなかったけど、 には届いた。
 嬉しくて、黒真珠のような瞳から一筋、涙が落ちた。
 
一一一」

 優しい声が耳元で名前を呼ぶ。
 同時に、いつも優しくしっかりと自分を支えてくれる腕が、真っ白なウェデイングドレスを纏った細い身体を包み込んだ。
 彼の体温が優しくて、温かくて。とても愛しくて。
 
  はその温もりを確かめるかのように後ろを振り返った。
 そして、安心できる広い胸に顔を埋めて。

「ごめ…なさ…。今日は泣かないって…決めてた…のに…また…」

 誓いのキスの後に流した涙がようやく止まったと思った矢先。
 ブーケトスをするために教会から外へ出たら、階段下に集まっている人の中に、大切な親友の姿をみとめた。それだけなら、大丈夫だった。
 けれど、 は優しい笑顔で再び祝福をしてくれて、涙を堪えることはできなくなってしまった。
 こんなにも優しい友人がいて幸せだと言う気持ちと、いつも隣で支えてくれる人の想いに、胸が詰まる。

「僕は泣くだろうなって思ってたよ。正解だったね」

 言いながら、不二は腕の中の愛しい人の肩を優しく抱きしめる。
 朝露の中に咲く花のような香りが、彼の鼻腔をくすぐる。

「好きなだけ泣いていいよ?僕の腕は君専用だから…ね」

 さっきは涙を拭ってあげることしかできなかったけど、
 今はこうして抱きしめていてあげられるから。

 そう囁かれて、 は涙に濡れた瞳で不二を見上げた。
 違いの瞳が宙で絡み合う。
 彼は穏やかな優しい笑みを浮かべて彼女を見つめていた。
 
「一一一周助、私・・・」

「うん?」

「すごく、嬉しいの。ホントに嬉しいの」

 言って、 は潤んだ瞳で微笑んで。

「大好きな人たちにお祝いしてもらえて、あなたがここにいてくれて一一一」

 その後は、言葉にならなかった。
 愛し気に切れ長の瞳を細めた不二が、赤く色付く唇をキスで塞いだから。
 甘く優しいキスを落として、彼はフッと微笑んで。

「愛してるよ、

「私も愛してる」

 再び、唇が重なった。
 すると、周囲にワッと拍手が巻き起こった。
 甲高い指笛の音までして、あちこちから祝福の声が上がる。










『僕の全てを賭けて を幸せにするから一一一

              君の一生を僕にください』





 




 あの日、人生で一番嬉しい言葉をくれた人
 この人の隣で幸せになるから





 次はあなたが幸せになって一一一






  は大切な親友へ愛を込めて、青空へ向かって真っ白なブーケを投げた。












END


2005.04.26加筆・修正


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