Sweet Christmas
周助が仕事から帰った時間に間に合うように逆算して、私は夕食の準備に取りかかった。
外は寒いから、彼に温かい食事を作ってあげたいという気持ちはいつも変わらない。
でも今日は特別な日だから、腕に選りをかけた料理を作りたい。
いつでも美味しそうに食べてくれる周助の顔を思い浮かべて、くすっと笑った。
茹で上がったばかりのニョッキをトマトソースの中に入れる。勿論、トマトソースは周助の好みに合わせて、辛めにしてある。
そしてオーブンにメインの鶏肉を入れた。これができれば料理はほぼ完成。
「そろそろ帰ってくる…かな?」
時刻を確認してそう呟いたと同時に、短く2回、チャイムが鳴った。
これは、彼が帰宅した合図。
私は急いで玄関に向かった。
扉を開くと、予想に違わず旦那様の姿があった。
「ただいま、
」
「お帰りなさい・・・あなた」
結婚してからも彼を恋人時代と同じように名前で呼んでいるから、すごく恥ずかしいけど。
でも、去年のクリスマスイブ、周助が私に言って欲しいって言っていたから、彼を驚かすつもりで言ってみた。
けど、周助は驚くどころか嬉しそうに微笑んでいる。
去年は成功したから、今年もって思ったのは甘い考えだったみたい。
少し悔しくて、周助をじっと軽く睨むと、彼がフッと不敵に笑った。
「ねえ、
。もうひとつ、足りないと思わない?」
言われている意味が解らなくて、私は首を傾けた。
すると彼の腕がスッと伸びてきて、抱き締められた。
「周助?」
「キスもつけてねって言ったでしょ」
夜風に冷えた、しなやかな指先が唇をなぞって。
周助は色素の薄い瞳を少し細めた。
なんだか急に自分のしたことが恥ずかしくなって、周助から僅かに瞳を逸らした。
すると、頭の上からクスクスと楽しそうに笑う声がして。
「笑わなくてもい・・・・」
反射的に顔を周助へ向けると、少し冷たい唇が降ってきた。
触れるだけだったキスは、少しづつ深くなって、私は何も考えられなくなる。
ようやく解放された頃には、自分で立つことができなくなっていた。
「もうっ…周助のばか」
「ばかとは酷いな。
と甘いクリスマスを過ごしたくて、早く帰ってきたんだよ?」
「…嘘つき。いつもと同じ時間じゃない」
言って周助を睨むけど、彼は余裕を崩さない。
「クスッ。可愛いね、
」
何となくイヤな予感がして、私は周助の広い胸を押した。
そして。
「放して? お肉が焦げちゃうわ」
さっきオーブンに入れたばかりだから、まだ焦げるはずない。
でも、なんとかこの状態から抜け出したくて、そう言った。
周助が放してくれるかどうか、去年のコトを考えると半々だったけど、彼はあっさりと放してくれた。
「焦げなければ問題ないんだよね?」
その言葉に問い返す間もなく、周助はキッチンへと姿を消した。
まさか・・・
でも、だけど・・・
周助なら可能性はある…かも
「お待たせ、
」
いつの間にコートを脱いだのか、スーツだけになった周助が私の目の前に立っていた。
しかも、にこにことすごく嬉しそうに笑っている。
やっぱり、と思い、キッチンへ向かおうとした。
けれど。
「どこ行くの?オーブンなら止めてきたから大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないわよ! 周助に食べて欲しくて頑張ってるのに、どうして!」
途端に目の前が歪んで、周助の顔がまともに見れなくなった。
どうして急に涙が出てくるのか解らない。
「ごめん、
。イタズラが過ぎたみたいだ」
少し低めの声と一緒に、目元に温かいものが触れる。
周助が目尻から流れ落ちる涙を唇で拭っているのだと理解した時には、彼の腕にしっかり抱き締められていた。
「オーブンを止めたなんて嘘だよ」
「え、嘘?」
「
の反応が可愛いから、つい…ね。
ホントにごめん。君を泣かせるつもりはなかったんだ」
周助が心配そうな瞳で私を見つめる。
こんな表情の彼は、見たことがなかった。
私が知っているのは、穏やかな笑顔と不敵に笑う顔、頬を少し朱色に染めて微笑む顔、真摯な顔。
それから、私だけが知っているオトコの顔。
こんな顔で謝られたら、何も言えなくなるじゃない。
「・・・ズルイ。 私ばっかり好きみたいだわ」
「そんなことないよ。
の料理を口にする度に、僕は君に益々溺れてるんだよ。
今日だって、ご馳走を作ってくれて、笑顔で僕を出迎えてくれて。
への想いは募るばかりで、減ることはないんだから」
ほら、また。
どうして私が欲しいと思う言葉をくれるの?
嬉しくて何も言えなくなっちゃう。
「やっぱりズルイ・・・」
彼の胸に顔を埋めて呟くと、大きな手で頭をそっと撫でられた。
高ぶっていた気持ちが段々と凪いでゆく。
「周助って不思議ね・・・」
「クスッ、そう? …あ」
「え?」
「もうすぐ焼けるんじゃない?」
その言葉にハッとなる。
オーブンでお肉を焼いている最中だった。
焦げた臭いはしてこないから、大丈夫だとは思うけど。
「周助、早く着替えてきてね」
「うん」
そうして私はキッチンへ。周助は寝室へ。
オーブンから黄金色に焼けたチキンを取り出して、少し厚めにスライスする。
それをほうれん草を敷いた皿の上に盛り付けて、上からタレをかけて。
ニョッキのトマトソースを温めながら、蒸し器から茹でた野菜を取り出して盛り付けて。
冷蔵庫から自家製ドレッシングを出す。
カトラリーはすでに用意してあるから、あとは主食のニョッキを盛り付ければ完成。
「イイ匂いだね。 どれも美味しそうだ」
ニコニコと笑う周助に、私も笑い返して。
「腕に選りをかけたもの。それに、周助への愛もいっぱい込めたわ」
スープ皿に盛り付けたニョッキを彼の前へ置きながら言った。
いつも負けてばかりだから、たまには仕返し…って思ったけど。
「ありがとう、
。すごく嬉しいよ。 お礼は後でたくさんするから…ね。フフッ」
私の顔、絶対に真っ赤だ。耳だってすごく熱いし。
どうしてこういうことを周助はサラッと言えちゃうのかしら。
「クスクス。 まずは乾杯からかな?」
言いながら、周助の手がワインに伸びて。
コルクスクリューを使って、慣れた仕種でコルクを抜く。
そして私のグラスに赤いワインを注いだ。
私は周助からワインを受け取って、彼のグラスにワインを注ぐ。
クリスタルのワイングラスを軽く合わせると、キィンという小さな音が響いて。
「「Merry Christmas」」
ワインを一口飲んだ。
甘い香りが口の中に広がって、やっぱり白の方が好きかも、なんて思った。
すると微かな笑い声がした。
「来年のクリスマスは白ワインを二人で選びに行こう」
「…なんでもお見通し? ふふっ」
「
のコトならね」
色んなコトを話ながら、二人きりの楽しい夕食を過ごして。
そして夜は一一一
甘くて熱い蕩けるような時間になった。
だって、周助には勝てないもの一一一
「
、君だけを愛してる」
意識がなくなる瞬間、遠くで甘い囁きが聴こえた。
END
R18にしようと思ってました;
でも、今年は止めました。ヒロイン視点のエロを表に置くのはどうかと…。
周助くん視点? もっとダメでしょ。周助くんが暴走しちゃうもん^^;
「Happy Christmas」と微妙に連動していたりするのですが、お気付きになりました?
2004.12.24限定公開・再録
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