Love message

 

 

 優しい色に染まった桜の花弁が、ヒラリと舞う。
 風に踊るように。
 そっと軽やかに、舞い降りる。
 
 包み込むような温かい日射しの中で、 が振り返って微笑む。
 黒曜のような瞳は小さな子供のように、キラキラと輝いている。
 こうして素直に感情を表に出す は、年上とは思えないくらい可愛い。
 幸せそうに微笑む を見ると、僕も嬉しくなる。

「キレイね」

 緩やかに首を傾けて、 は瞳を細めた。
 さわさわと吹く微風に、瞳と同色の艶やかな黒髪が踊る。

「ここの所いい天気が続いたから、一斉に咲いたんじゃない?」

 暦はすでに四月初旬だけど、今年は例年より温かくなるのが遅かった。
 そのため開花宣言されたのは、三月も終わりの頃だった。

「あと二、三日もしたら満開かしら」

「うん、そうだろうね」

 言いながら、 との数歩の距離を一気に詰めた。
 そして、細い身体をそっと抱きしめて。

「満開の桜、見せてあげられなくてごめん」

 柔らかで触り心地のいい長い黒髪を指に絡めながら、耳元で囁いた。
 すると、僕の腕の中で は緩く左右に首を振った。

「謝らないで?満開の桜を見られないのは淋しいわ。でも一一一」

  は一旦言葉を区切った。
 そして、僕の瞳を見つめながら、静かに口を開いた。

「私は周助と一緒に行くって決めたの。
 他の誰でもなく、あなたにずっとついて行くって。そう言ったでしょう?」

 春の女神のように優しい笑みを浮かべて、 は言った。
 まっすぐに僕を見つめる黒い瞳には、揺るぎない光。

 ねえ、
 君の優しさに僕がどれほど救われているか、君は知らないだろう。
 僕の心が迷い彷徨っている時。
 君の言葉が、君がくれる温もりが、いつも僕の背中を押してくれる。


 去年の夏、僕は高校卒業と同時にプロになり、渡米することを決めた。
 それから数カ月後。
 卒業式が終わった後、卒業を祝ってくれた君に、僕はプロポーズをした。
 もっとちゃんと生活力を身に付けてから、と と付き合って数年の間はそう考えていた。
 でも、現実は思い描いていたものとは違った。



 僕は を離したくなかった

 いつでも傍にいて欲しかった

 手を伸ばせば抱き締められる距離に

 隣にいて欲しかった



 僕は君以外愛せない一一一



‥‥」

「なに?」

 出逢った頃と変わらない笑顔で、 は僕を見つめる。
 僕もそれに笑い返して。

「愛してる」

 そう言うと、 は白い頬を微かに赤く染めて。
 コクンと頷いて。

「私も愛してるわ」

 ゆっくりと顔を近付けると、 は黒い瞳を閉じた。
 僕は細い身体を抱きしめ直して、柔らかな唇へキスを落とした。


「必ず幸せにするよ、

「うん。 幸せにしてね、周助」

 言って、 がくすぐったそうに微笑む。

「世界中の誰よりも、幸せにするよ」

 再び言った時、ヒラッと桜の花弁が の黒髪に舞い降りた。
 見上げると、空から無数の花弁が舞い降りてくる様が見えた。

「わぁ‥‥桜吹雪」

「          」

「え?なに、周助。よく聴こえなかったわ」

 




 桜が僕たちを祝福してくれてるみたいだね




 囁くと、 は嬉しそうに「うん」と頷いて。
 そして、黒い瞳で僕を見上げて。

「ここに連れてきてくれてありがとう、周助」

 そう言って微笑む に、僕は少しだけ深いキスで答えた。






 

 出逢った場所ではないけど、二人で出かけよう

 満開の桜の下でデートしよう

 初めて君と出掛けたあの日のように手を繋いで



 僕は君に愛を囁いて

 想いの全てをこめたキスを

 

 君に贈るよ一一一











END


ドリームを書き始めて二周年。
という訳で、プチ投票でぶっちぎり1位だった「周助くん視点」で書いてみました。

 

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